近年、無人航空機(ドローン)の技術の進歩は日進月歩のごとく目覚ましいものがある。最新型(2017年10月時点)のドローンでは、障害物自動回避機能や自動帰還システム(電池容量が少なくなると、出発地点へ自動的に帰還する機能)などが備えられ、また、カメラも2000万画素を超えるもの(4Kテレビの解像度が約800万画素)が搭載されるようになるなど、その高機能化が進む。一方で、かつてのさまざまなメディア機器がそうであったように、技術向上とともにその低価格化も進んでいる。たとえば、先に取り上げた最新型のドローンは25万円程度で手に入るようになっているし、入門向けの安価なものになれば1万円程度で購入できるようになっている。
このようなドローンは、空撮や地形の測量、農業・物流などでの活用がすでに始まっており、今後「空の産業革命」を起こすことが期待されているが、社会調査への活用も今後、議論されていくことになるだろう。すでに「基礎技術の研究から、ドローンを活用した社会応用まで」さまざまな研究活動を進めることを謳った慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアム(http://drone.sfc.keio.ac.jp/)など、ドローンの活用を模索する研究機関も設置されつつあり、筆者の所属する大学でも、今年に入り、建築や映像・アニメーション、社会学を専門とした教職員有志によるドローン研究会が立ち上げられ、ドローンの操縦訓練やその活用についての議論が重ねられるようになっている。研究会では、すでに何度か撮影を行っているが、4Kカメラを搭載したドローンによる映像は、鮮明に対象を捉えられ、また、360度にわたってカメラを回すことができるため、周囲の状況を把握しやすいものになっている(自動補正機能が備わっているドローンのカメラで撮影すれば、カメラを動かしてもブレを感じることはほとんどない)。 このような「鳥の目」視点による映像で現場を記録できることは、さまざまな可能性と課題を社会調査にもたらすことは想像に難くない。俯瞰的な視点で撮られた映像記録は新たな視点のビジュアル資料の収集への道を開くし、ドローンを通じて空から特定の対象を撮影することそのものが、操縦する調査者に対象への新たな気づきを生むこともあるだろう。一方で、調査者はドローンの操縦にかかりきりにならざるを得ないため、従来のフィールドワークのように、頭の中で「鳥の目」的視点と「虫の目」的視点を両立させながら現場を観察することが難しくなるかもしれないし、これまで以上に調査倫理上の問題も数多く提出されることになるだろう。精密に撮影可能であるからこそ、ドローンを通じてさまざまなものを「盗み見」する機会が増えてしまうからだ。
このようにさまざまな可能性と問題点を想定することが可能な「ドローンによる社会調査」であるが、その実施のハードルは現状、非常に高いものがある。その一つとして挙げられるのが法律上の課題である。2015年12月10日に施工された改正航空法では、無人航空機の定義や飛行禁止空域、その飛行方法について新たに定められている。この飛行禁止杭空域は、(1)地表・水面150メートル以上の空域(2)空港周辺の空域(3)人口集中地区の上空が対象となる。このうち(3)人口集中地区とは、国勢調査に基づいた人口に基づき、「1)原則として人口密度が1平方キロメートル当たり4,000人以上の基本単位区等が市区町村の境域内で互いに隣接して、2)それらの隣接した地域の人口が国勢調査時に5,000人以上を有するこの地域」(注)を指す。そのため、都市部の多くの地域の上空では200グラム以上のドローンの飛行は禁止されており、その上空での飛行を希望する場合は、国土交通省へ許可申請を行い、許可・承認を得る必要が出てくる。許可申請においては、一定の飛行実績も必要になってくるため、あらかじめドローンの飛行が禁止されていない空域で実績を積んでおかなければならない。また、航空法以外にも個人情報保護法や民法などの規則も絡んでくることに注意する必要があるだろう。さらに、ドローンによるトラブルの報道もあり、上空を飛行され、かつ、撮影されることへの人びと抵抗感も根強いものがあることを想定しておかなければならないだろう。
このように、技術的にも法律的にも社会通念的にも多くの障壁が存在することもあり、すぐにドローンによる社会調査が受け入れられるわけではないだろうが、とはいえ、さまざまな分野でドローンの活用が進められるようとする現在、ドローンの飛行が当たり前となる社会(「ドローン前提社会」)は一歩一歩近づいてきていると言えよう。その社会において、社会調査のツールとしてドローンをどのように運用していくべきか、今後議論が進んでいくことが期待される。
注 「統計局ホームページ/人口集中地区とは」(http://www.stat.go.jp/data/chiri/1-1.htm、2017年10月20日閲覧)を参照。また、どこが人口集中地区に当たるかついては、統計局ホームページの「国勢調査 人口集中地区境界図(平成27年)」を参照。(http://www.stat.go.jp/data/chiri/map/c_koku/kyokaizu/index.htm、2017年10月20日閲覧)