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2013年8月2日(土)
世論操作か世論調査か
相愛大学   教授 大村英昭
社会調査オピニオン
世論操作か世論調査か
相愛大学   教授 大村英昭
2013年8月2日UP

マス・メディアによる事実上の世論操作が横行しているように思いますので、この際、世論調査に携わる人々には、とくとお考えいただきたいと存じまして、筆をおこしました。まず、いちばん近いところでご記憶の通り、投票日が近づくにつれ、各紙は一斉に「ねじれ解消が争点」という大見出しを掲げ、それに沿った記事を載せるようになりました。でも、これって政権与党の選挙戦術を、そっくり“おうむ返し”に繰り返しているだけのことではないのでしょうか。解決の難しそうなあらゆる争点からは目を外(そ)らし、国民世論をこの「ねじれ解消」の一点に誘導する。そして事実、マス・メディアの大々的な協力を得て、この戦術は見事に成功したというのが、今回の選挙結果ではありませんか。調査技法にいうワーディング問題に限定すれば、「ねじれ」という言葉遣いからして、政権与党側の用語であることに気付かねばなりません。なぜなら、仮に野党側が反対意見を提起するとして、我われは「ねじれを守りますとか維持します」と言えるかどうかを考えられればよく判りましょう。つまり「ねじれ」という言葉を使えば、途端に、それはないほうが良いという意味を自動的に呼びよせてしまうわけです。

たぶん、今回の選挙結果のおかげで、衆議院における多数意見が、そっくりそのまま参議院の多数意見にもなることでしょう。つまりは二院制そのものの存在意義が問われる事態になるでしょう。その段階になれば、マス・メディアは、またシャーシャーと、そのことに疑問を投げかけるような議論をするのでしょうが、筆者からすれば、「よく言うョ…、あんたらが政権与党のスポークスマンになり下がったおかげじゃないか」と言いたいところです。

この際ですから、もっと気になっている事柄、そうマス・メディアが繰り返している憲法をめぐっての世論調査にも触れておきたいと存じます。先に触れましたワーディング問題からいえば「憲法改正」という誰もが疑問に思っていないらしい言葉からして、筆者は常々「おかしいなァ」と思ってきた者です。「改正」は、「ねじれ」と同様、改憲派にとってはまことに都合のいい言葉遣いだからです。私自身、いまの憲法に改めるべきところがない、などとは思っておりません。条項によっては改めたほうがいいとも考えています。しかし、どの条項をという最も重要な争点を抜きに、いきなり「憲法改正が是か非か」などと尋ねられて、どちらにせよ「そう思う」とは断じて応えるわけにはいかないのです。憲法問題をまじめに考えてきた人なら誰もがそう思うはずです。ですから世論調査といいながら、「憲法改正に反対か、賛成か」などと尋ねること自体、またも自民党の争点隠し、もっと言えば「衣の下の鎧」隠しに手を貸すことになるのです。護憲論者からすれば、少なくとも自民党のねらいは、憲法改悪と映っているはず。それを「改正」と強弁する限り、争点ぼかしも加えた政権与党の党利党略に便乗した世論調査ではなく、世論操作だといわざるを得ません。ですから、せっかくコストの掛かる世論調査をするのなら、どの条項を改めるべきと人々は考えているのか、ここを明確にして、積極的に意見分布を引き出すつもりで、さらにいえば曖昧模糊((あいまいもこ)とした世論の中から明瞭な意見分布を積極的に掘り出すぐらいの意気込みでなされるべきです。たとえば、こんな質問によってです。「憲法を改めて、我が国を戦争のできる国にすべきだという意見がありますが、あなたはこの意見に賛成ですか、反対ですか」というように。