今日では政治、経済、保健医療、教育、環境などさまざまな分野で社会調査が行われている。
社会調査をベースとし、実理を重視したデータの科学の実践により、現実のさまざまな問題や特徴を浮かびあがらせることが可能になる。これまで統計数理研究所の林知己夫や水野 坦らに端を発し、このような統計哲学のもとでのデータの科学の発展を志向し、その哲学に基づいた国際比較調査が同研究所の吉野諒三らに引き継がれ実践されてきている。
社会調査では一般の人々を対象としているため、できるかぎり誰もが理解できるような質問を用いて、その結果をわかりやすい形でまとめることが求められる。しかし、ここで誤解されやすいのが、調査は簡単で結果もシンプルにまとめればよいだけだというように受け取られてしまうことであろう。シンプルな表現は決して単純な作業を意味しない。これは、その分野に習熟し深く理解している優れた人の講義と似ているかもしれない。理解していればしているほどそのことの真髄を単純化してわかりやすく表現することができるものである。その奥には深い知識と洞察力が潜んでおり、それに裏付けられているからこそ、要点をわかりやすく表現できるのである。調査結果をシンプルな表現でその潜在する構造を明確に表現するためには、その質問やそれに対する回答の性格を熟知し、ホンネとタテマエとしての回答を見抜き、その奥に潜む人々の考え方や態度などの情報を引き出すデータ解析能力が必要なのである。個々の質問を注意深く読み取り、それらの関連性や考え方・態度の構造を深く分析し、その結果から抽出されたことがらを、もとの質問に戻ってできるだけシンプルな回答として表現し、かみ砕いた結果の解釈をすることが要求されるのである。
このように問題を把握するためには、質問項目の適切な選定や質問文を平易で間違えや誤解無く回答できるように表現し、さらに信頼できるデータを収集し、その結果を総合的に分析した上で容易でわかりやすく表現するという、一連の過程が適切に実践されることが必要不可欠なのである。 このようにして表出された情報であっても、表面的にまとめられた結果だけをみても、その経緯がわからなければ質を評価することは難しいであろう。このために調査結果を公表するときには、できるだけその過程を詳細にあわせて報告することが重要な意味をもつ。
このような実理重視のデータの科学の発展をめざし調査リテラシー教育を行っていくことは、今後のわれわれに課せられた課題の1つではあるまいか。