近年、インターネット調査の普及が進んでいる。普及当初は市場調査を目的としたものが多く見られたが、現在は学術的研究や行政機関の実施する調査でも利用されるケースが増えている。郵送調査や訪問面接式調査等の従来型調査の手法に比べると、インターネット調査の利点はさまざまであるが、なんといってもデータの収集にかかる時間的・金銭的コストなどを大幅に削減できることであろう。その反面、インターネット調査は、母集団の特定が困難であるという問題や、回答の質に関する問題を抱えている。後者に関しては、質問項目を読まずに回答していると思われる「不良回答(Satisfice行動)」の発生率が、他の手法よりも高いことが一因として指摘されている。
不良回答が何によって生み出されているのかについては、さまざまな説明が可能である。例えば、モニター制インターネット調査における謝礼目当ての回答者、調査項目の不備や項目数の過多など調査の設計に関する問題が、挙げられるだろう。これらに起因する調査の質的低下を回避するために、インターネット調査の回答傾向の把握や、「不良回答」を識別する手法の確立に向けた研究も行われている。それらの研究成果は、今後、インターネット調査を利用し研究する側に対しては、さらに調査の信頼性を高め、活用範囲を拡大するのに寄与するであろう。そして、それによって当該問題は一見、解決可能なようにも思われる。
このように、不良回答問題に対処方略の考案は、インターネット調査を利用する流れをさらに後押しするであろう。しかし、そのインターネット調査の実施数の増加は、回答者にとっては、研究目的や意義も理解できぬまま、何に役立つのかも分からない調査に回答する回数の増加を示唆しており、それが「不良回答」発生の遠因となっている可能性はないだろうか。インターネット調査の場合には、他の対面式の調査法に比べ、調査の趣旨や、調査結果がどう実生活に還元されていくことになるのかを回答者側に説明し、理解の上で回答を求める、という手順が簡略化あるいは省略されがちであるように思う。
インターネット調査の普及は、調査の実施者に対しては、短期間に大量の調査データを安価に収集することを可能にした。それによって省かれた労力をもとに、研究者は調査そのものの質的向上と、調査結果の社会的還元により注力すべきだろう。そうした取り組みが、社会調査に対する人々の理解を促し、調査への協力率の向上と不良回答の発生率の抑制という好循環を生み出してくれるのではないだろうか。