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2016年7月1日(金)
調査に協力しない人たち
NHK放送文化研究所 小野寺 典子
社会調査オピニオン
調査に協力しない人たち
NHK放送文化研究所 小野寺 典子
2016年7月1日UP

調査の回収率の低下は、近年調査に関わるものすべての悩みであろう。一昔前までは、回収率低下の理由は、女性の社会参加や長時間労働による不在や深夜帰宅、そしてセキュリティ意識やプライバシー意識の高まりによる拒否であった。最近では、それに加えてオートロックマンションの増加による調査不能が言われるようになってきている。確かに、オートロックマンションに住む調査対象者に会うのは大変である。ただし、オートロックマンションの場合、何とかして会えればそれほど協力率は低くなく、郵送調査では協力してもらいやすい人たちかもしれない。

NHKでは2014年まで、自ら調査員を使って配付回収法(留置)の訪問調査を実施していた。その中で気がついたことがある。まず、こちらから出したアクションに対する反応の数が少なくなってきている。RDDで実施される電話調査を除けば、どんな調査も事前の協力依頼状を送ることからはじめるが、以前は、協力依頼状が着く頃に、調査相手の電話を相当数受けたものである。「その日は出かけるので○時に来てくれないか」「本当にNHKの調査か」「調査は受けないことにしているので来ないでほしい・・」、郵送調査でも「2度と送ってくるな」などの電話を受けていた。ところが、自ら調査員を使っていた最後の頃は、良くも悪くも電話を受けることが少なくなっていた。

調査不能の理由で目立って増えてきたのは居留守である。調査員によれば、電気がついていたり、明らかに家にいる様子がうかがえたりするのに、反応がないというのである。人に会うのが嫌だとか、プライバシー意識やセキュリティ意識の高まりではないかと思っていたが、そういった強い意識からくるものだけではないように思えてきた。

最近、知り合いのひとり暮らしの40代前半の男性と話をしていたところ、彼は、郵便受けをみる習慣がないのである。最近はEメールやSNSを使用するため、手紙のやり取りをしない。新聞もとっていない。郵便受けをみる理由がないそうである。彼に協力依頼状や郵送調査票を送っても、みてもらえなさそうである。さらに、彼は家のベルを鳴らされても、インターネットで買った物が届けられる時で無ければドアを開けないという。連絡もなしに知人が訪問してくることは無いからである。調査員が訪問しても出てこない人は調査を拒否するというよりも、自分とは無関係だという認識のためなのかもしれない。調査に協力してもらえる可能性が、調査への無関心さや生活スタイルの変化によってとみに減っているように思われる。その後、同じような生活をしている何人かの若い年代の人に聞いてみたが、郵便受けをみない人や人が訪ねてきてもドアを開けない人は、最近ではそれほど珍しくはないようである。

今のところ、こういう人たちへの対策も、旧来からのアプローチ方法である訪問調査では調査員に努力してもらうことであり、郵送調査では何回か郵便を送ることだろう。なかなか画期的なアイデアはない。 調査結果を利用するものは、このような居留守などの調査不能に関する情報を頭の片隅において、結果の分析を行うべきなのだろう。この人たちの意識は、調査に協力してくれる人だけではなくかつての協力してくれなかった人とも異なっているかもしれない。そのような人は、政治や社会にどのくらい関心を持っているだろうかなどの疑問がわく。

今後も調査現場でどのようなことが起きているのか、何らかの方法で知る努力を続けていかねばならないと思う。調査不能の対策を考え、また、調査結果には反映されない一部の人の意識を調査現場の状況から感じとる必要があるだろう。