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2015年4月14日(火)
社会調査士の「質」をどのように保証していくか
-韓国の「社会調査分析士」との比較から-

立教大学社会学部 岩間 暁子
社会調査オピニオン
社会調査士の「質」をどのように保証していくか
-韓国の「社会調査分析士」との比較から-
立教大学社会学部 岩間 暁子
2015年4月14日UP

日本の大学は入学希望者総数が入学定員総数を下回る、いわゆる「大学全入時代」を迎え、学生の学力低下が危惧されている。同時に、グローバル化により、国際的水準を満たす「学士」の学位授与がより一層求められてもいる。こうした変化は、文部科学省高等教育局長からの審議依頼を受け、日本学術会議内に「大学教育の分野別質保証委員会」が設置されたことからもうかがえる。ここでは、日本の大学が直面するこれらの課題を踏まえつつ、「社会調査士の『質』をどのように担保・保証していくのか」「社会調査士の資格としての有用性や信頼をどのように確保していくのか」について、韓国の「社会調査分析士」資格を一つの手がかりとしながら考えてみたい。

日本の「社会調査士」「専門社会調査士」に類似した資格として、韓国には統計庁が主管する国家資格「社会調査分析士(Survey Analyst)」がある。この資格には1級(Senior)と2級(Junior)の2種類があり、前者は年1回、後者は年3回試験が実施されている。資格取得の主なメリットとして、(1)統計職の公務員試験時の加算点付与(1級合格者には6-7級職、8-9級職ともに5%の加算、2級合格者には6-7級職で3%、8-9職で5%の加算)、(2)1級合格者には45単位、2級合格者には20単位の単位認定がある。試験はマークシート方式の一次試験、一次試験合格者のみが受験する実技方式による二次試験からなる。紙幅の都合上、以下では(受験資格に一切の条件づけはなされていないものの)実質的に学部卒業レベルに相当すると考えられる2級に絞ってより具体的に紹介する。

一次試験は「調査方法論1」「調査方法論2」「社会統計」の3領域からそれぞれ30問、30問、40問の合計100問が出題され、4つの選択肢から1つの正解を選ぶマークシート方式の筆記試験である(2時間30分)。一次試験の合格基準は各領域すべてで40点以上および全領域平均で60点以上、二次試験では60点以上である。二次試験は社会調査分析実務(質問作成、記述統計処理・分析の実技)であり、筆記試験(2時間、配点は60点)と実習(2時間程度、配点は40点)が併用されている(合計4時間程度)。2015年度の第一回試験のスケジュールは次の通りである。一次試験の出願期間は1月30日~2月5日、試験は3月8日、合格者発表は3月20日(予定)、二次試験の出願期間は3月23日~26日、試験の実施期間は4月18日~5月1日、合格者発表は5月29日であり、出願から資格取得までの期間は約4か月と短い。

2014年度の場合、一次試験受験者数6,982人に対する合格者数は4,745人(合格率は68.0%)、二次試験受験者数5,041人に対する合格者数は3,745人(合格率は74.3%)である。(年度による合格率の差はかなり大きいが)2000年度の資格導入から2014年度までのすべてのデータに基づく一次試験合格率は55.3%(受験者総数54,063人に対する合格者総数は29,905人)、二次試験合格率46.7%(受験者総数33,914人に対する合格者総数は15,836人)である。なお、2015年度の一次試験受験料は19400ウォン、二次試験受験料は33400ウォンである。

日本の多くの社会学系の学部・学科で社会調査士資格の取得に対応した標準カリキュラムが設けられているのと同様に、韓国でも社会学専攻が設置されている多くの大学で社会調査分析士の資格取得に対応した科目やプログラムが設けられていると聞くが、二つの資格制度の間には次のような違いが見られる。

第一に、日本の社会調査士は、学生の到達度を直接評価する試験を導入しておらず、各大学での単位認定に基づく資格取得であるのに対し、韓国の社会調査分析士は一定の基準に達している者のみが取得できる。

第二に、国家資格である韓国の社会調査分析士では、量的調査に関する実技試験が課されていることからも明らかなように、理論だけではなく、量的調査の実務能力がより重視されている。2009年度から2013年度までの社会調査分析士(2級)の過去問題を見ると(受験企画室 2014)、社会調査の出題範囲は日本の社会調査士標準カリキュラムのA科目およびB科目にほぼ対応しているのに対し、社会統計学では仮説検定や重回帰分析に加え、ロジット分析、判別分析、クラスター分析、時系列分析なども含めたより高度な手法の知識が求められている。

第三に、韓国の社会調査分析士は資格取得のメリットをより具体的に明示している。関連して、資格の有用性は、合格率がそれほど高くないという「希少性」によって担保されている。

こうした比較に基づくと、日本の社会調査士は必要単位の修得によって資格取得を可能とすることによって学生の社会調査に対する関心の喚起、学びの方向性や体系性の可視化をより重視しているのに対し、韓国の社会調査分析士は量的調査に対するニーズの増加に対応した人材養成を目的としており、質の保証をより重視しているという違いが浮かび上がる。つまり、韓国の社会調査分析士は共通試験に合格できる知識や実務能力を実際に身につけていることを求めており、それに応えるために各大学は授業の位置づけや授業運営の充実化をはからなければならないのである。

日本における大学生の学力低下問題、インターネット調査の増加などを背景として量的調査に関する知識や実務能力を身につけた人材へのニーズが高まっていること、量的データの収集方法や分析手法などについて社会学を学ぶ学生に期待される水準は国際的にある程度共有されていることなどをあわせて考えるならば、資格を出す側には、社会調査士の質を保証することがより一層求められているのではないか。こうした要請に応えるためには、例えば、資格取得希望者には韓国の社会調査分析士と同様に、到達度をはかる共通試験を課すことも方策として考えられるだろうし、過渡的措置として、現行の「量的データ解析の方法に関する科目(E科目)」と 「質的な分析の方法に関する科目(F科目)」のいずれか一方の履修でよい標準カリキュラムを改訂し、E科目を必修化することも一案として考えられる。

日本統計学会が公式認定している「専門統計調査士」(5肢選択回答式のマークシート方式で約50問を90分で解く筆記試験を受け、70点以上で合格)との違いも一般にはわかりにくい1)。こうした関連する他の資格との違いをより明示的に説明する努力もあわせて必要ではないだろうか。

こうした取り組みを通じて、社会調査士の質を保証し、資格としての社会的有用性や意義を説明していく努力がより一層求められている。


1)加えて、イギリスの王立統計学会 (The Royal Statistical Society, RSS) との契約に基づき、同学会が実施してきた「RSS/JSS」試験も2012年から日本で実施されている。

参考資料
日本学術会議社会学委員会社会学分野の参照基準検討分科会, 2014,『大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準:社会学分野』
(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-h140930-5.pdf)
一般財団法人統計質保証推進協会「RSS/JSS」
(http://www.toukei-kentei.jp/about/rssjss/index.html)
一般財団法人統計質保証推進協会「専門統計調査士」
(http://www.toukei-kentei.jp/about/senmontyousa.html)
수험기획실편저, 2014,『新2015 사회조사분석사 2급필기-기출문제해설』시대고시기획(受験企画室編著, 2014, 『新2015 社会調査分析士 2級筆記-既出問題解説』 時代考試企画).
韓国産業人力公団(www.q-net.or.kr)