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2015年2月10日(火)
声に出して読む質問紙
筑波大学 飯田 浩之
社会調査オピニオン
声に出して読む質問紙
筑波大学  飯田 浩之
2015年2月10日UP

私の専門の教育社会学では、児童・生徒を対象とした調査がよく行われる。この種の調査では、実査は学校に依頼して、クラスごと、集団記入法で行ってもらうのが普通である。学校に頼んでしまうので、「実査」と言っても実際には、児童・生徒が質問紙に回答する場に立ち会わない。

質問紙を使った社会調査に自記式と他記式があることは、調査の“イロハ”である。上記の場合、言うまでもなく自記式である。上記のような調査だけではない。今日、行われる多くの調査が自記式になっている。他記式の典型は面接法であるので、フィールドに赴いての面接法が使われなくなっているということでもある。最近、よく行われるようになってきたネットを使っての調査も、ディスプレィ上への入力ではあるが、「自記式」である。

思えば、学生時代に経験した始めての社会調査は、フィールドに赴いての調査だった。社会調査は、フィールドに赴いての面接法、他記式が基本だと教えられた。質問紙づくりでは、回答者に向けて質問を読みあげることを前提に、質問文の検討が行われた。回答者は、質問を耳で聞いただけで理解できているか。質問紙を渡さなくても、尋ねていることが回答者に正確、かつ、誰にも同じように伝わっているか。回答者の理解にバイアスがかかっていないか。その点を検討するワーディングの作業に、膨大な時間が費やされた。そしてそれは、単なる「作業」ではなかった。フィールドとそのフィールドに生きる対象者の存在を意識することだった。さらに、対象としている人々のことを知ることであり、そうした人々が生きる社会のことを解明するステップだった。その意味で、読みあげることを前提にした質問紙づくりでは、「実査」は、その段階で既に始まっていた。

先にも記したように、今日、面接法・他記式で行われる調査が減っている。調査教育の初発において面接法・他記式を経験させることもなくなっている。まして、児童・生徒調査では、学校に頼んで行う自記式・集団記入法の調査が当たり前になっている。調査者が回答者に向けて読みあげることを前提とした質問紙づくりも行われなくなっている。

先日、学生が作ってきた質問の案を見て、愕然とさせられた。というのも、言葉使いが、さながら「テスト」であった。集団記入法・自記式の調査を、彼らは、学校の“テスト”と同一視しているのでは・・・と、不安になった。「社会調査」は「テスト」ではない。「テスト」は、それを実施する側がそれを受ける側を診断・評価するものである。「社会調査」は、フィールドに生きる人々の意識や行為をフィールドに即して解明・理解するものである。そのように考えてきたことが、突き崩される思いがした。「社会調査」の基本だと思ってきたことが、基本でなくなっていると危機感を抱かざるを得なかった。

「社会調査」も、時代と共に変化していく。今日の社会情勢から考えて、面接法・他記式の調査は、ますます、減っていくにちがいない。それはそれで時代の流れかもしれないが、やはり、その流れにどこかで抵抗したくなる。「社会調査」の「社会調査」たる所以が失われていくように思われ、「それでいいのか」と言いたくなる。

せめて、質問紙づくりにおいては、それが、自記式のものであったとしても、他記式の調査と同様、声に出して読んで質問を作りたい。学校に依頼して集団記入法で行われる調査であったとしても、フィールドに赴いて実施する面接法・他記式の調査を想定して、質問をつくりたい。フィールドに生きる人々とその人々がつくる社会のことを知るスタンスで、質問紙を、声に出して読みながら・・・。