今年は参院選、都知事選と連続して選挙が実施された。これらの選挙では、結果はもちろんのこと、選挙権が18歳に引き下げられたことでも注目されたが、社会調査を取り巻く環境にも大きな変化をもたらした。
第一に、「若年層に対する調査」の増加である。各新聞社は、新有権者となった若年層の政治意識を明らかにすべく、18歳、19歳を対象とした世論調査を実施し、その調査結果が新聞紙上を賑わせた。また、学術的な調査も数多く実施されたが、詳細な結果は今後明らかになるだろう。第二に、「若年層による調査」の増加である。選挙権引き下げで大学生すべてが有権者となり、学生にも変化がもたらされた。実際、担当する社会調査関連の授業では、政治や世論調査への関心が高まったとの声や、有権者の政治意識について実際に調査を行い研究や卒業論文の執筆をしたいとの声も聞くようになった。
以上のように、選挙権の引き下げは、若年層を世論調査の対象に拡大する「若年層に対する調査」の増加だけでなく、若年層が調査主体となる「若年層による調査」を潜在的に増加させた。しかし、「若年層による調査」は現状では必ずしも充実しているとはいえない。では、「若年層による調査」を可能にさせる手段にはどのようなものがあるだろうか。以下、三つの方法について検討してみたい。
まず、大学内での調査や友人知人を介した実施である。近年ではwebのフォームで質問項目を設定すればデータ入力までもが簡単に行えるし、SNSやQRコードなどを用いて周知すれば多くのデータを集めることもできる。また、自らの問題意識や仮説に従って、調査を実施できる利点もある。しかし、代表性などの方法論的な問題や結果の外的妥当性の問題も抱えることになる。本来、適切な調査対象の選定やサンプリングの実施が望ましいが、予算や人的資源を考慮すると学生個人では現実的には難しい。
次に、教員の研究プロジェクトへの参加である。この場合、適切な調査対象の選定や大規模なサンプリングが行われることも多く、方法論的問題や外的妥当性の問題は大幅に克服されるし学生の予算負担もない。ただし、当然、教員の仮説・調査項目が優先されることになる。したがって、プロジェクトの内容と学生の興味関心とが合致すれば利点も多いが、学生自らが質問を設定する自由度は著しく低下する。
最後に、社会調査実習科目(G科目)での実施である。この場合、大学の実習科目であり予算の問題もない。人的資源の問題も、履修人数を確保すれば大幅に軽減される。また、そもそも一連の調査過程を学ぶ科目であることから、学生自らが質問項目を設定する自由度は高く、選挙実施の前後に調査のタイミング合わせれば、選挙・投票行動研究の多くの学術調査と同様の「若年層による調査」が可能となる。7月実施が多い参院選を例にすれば、春学期中に調査の企画、仮説・調査項目の設定、調査票の作成を行い、サンプリング、実査、そして、秋学期を中心に分析や報告書の作成という一連のスケジュールを立てやすくなる。
ただし、考慮すべき問題もある。第一に、選挙が毎年定期的には実施されない点である。国政選挙に焦点を当てれば、選挙がない年や解散に基づく選挙など、調査スケジュールが立てられない場合もある。また、サンプリングを行う場合、選挙人名簿は公示・告示後に一定期間、閲覧できなくなり、調査スケジュールの調整が強いられるだろう。その場合、地方選挙や知事選挙などへの対象選挙の拡大や、有権者調査だけでなく国会議員や地方議員といった政治家や政策エリートの悉皆調査などの検討が必要かもしれない。第二に、調査倫理教育の拡充や適切な倫理審査体制の構築である。「若年層による調査」に携わる学生は、多くの場合初めての調査経験となり、仮説や質問項目の指導により焦点が当てられるであろう。もちろん、調査の成功を左右する重要な問題であるし、「若年層による調査」であるからこその新しい仮説や質問項目もあろう。しかし、そうした質問項目が活かされるか否かは、調査対象者の協力があってこそである。また、調査を行えば、調査対象者からの問い合わせなどにも対応しなければならない。そうした意味では、学生それぞれが一人の研究者として調査に臨めるよう調査倫理の理解を深める必要があるし、より適切な調査を担保する倫理審査体制の構築は必須となる。 選挙権引き下げと、参院選、都知事選の連続的な実施は社会調査の環境も変化させたが、若年層を調査対象とするだけでなく、若年層が主体となる調査が適切かつ良質なものとなるように支援体制を拡充することは、われわれ調査経験者の責務ではないだろうか。