社会調査実習紹介
楽しい + さまざまな体験に満ちた調査実習を紹介します

データから出発しての気づき

杉原 名穂子(新潟大学)

社会調査実習と聞いてどのようなイメージが浮かぶだろうか。仲間たちとフィールドに出て現地のさまざまな人々や資料に触れることをイメージする人が多いのではないか。

ところが、今回紹介する社会調査実習は、まだ新型コロナ感染の警戒がとけていない時期のもので、そのような形式の実習はかなわなかった。フィールドに出るのが難しい特異な状況を鑑み、資料を独自で収集し、それと向き合うことをめざすことになった。テーマは誰もが日常生活で経験するジェンダーに関するもので、在宅または身近で収集可能なデータということで、一つは新聞記事、もう一つは知人の語るライフヒストリー分析を行い、ジェンダーについての時代的変遷を追うことを目指した。学生同士の議論をへて、報告書の原稿は一人一人で執筆することとした。

グループ討論の様子

教員の側も初めての状況下での実習は手探りですすんでいった。ドキュメント分析では個別のテーマ設定というスタート時点でまずつまずいた。生活の中でさまざまなジェンダー経験はしても、それについてあまり考えることがなかったのだ。メディアでLGBTやイクメンの話はよく見るなあ、というレベル。キーワードの量的分析と質的分析では、検索件数が多すぎたり少なすぎたり、当初の予定からの変更が必要なものがほとんど。ライフヒストリー調査ではインタビューを一人で実施したが、メモをとりながら聞くこと、流れの中での質問のタイミング、相手のプライバシーに配慮しながら質問を考えることなど苦労がたえなかった。

しかし、思う通りにいかないからこそ、自分で様々に検討し工夫し、データをみつめ検討することで知識や問題意識が深まっていった。生まれる前の時代の記事や人々の語りを通して、自分が「当たり前」と考えている現象への気づきを深めていった。特異な状況での実習と考えていたが、結局、社会調査実習というのはデータを収集すること、得たデータとじっくり向き合うこと、相手の声に耳を傾けること、問題への認識を深め気づきを得ること、など手法はさまざまなれど本質は変わらないのである。仲間と議論をしながら分析をすすめていくことも、時代によるデータの変化を見ることも、他の世代の方の話を聞くことも、発見と気づきの連続で、振り返ると楽しい経験だったとのことである。ドキュメント分析が1990年代を境に明確に傾向の変化を示し、また2017年や2018年というここ数年の変化を描いている分析を見るにつけ、これは昭和、平成、令和の区分にあたる?などと教員の側も考えてしまったことも面白い経験だった。

  • 2024年12月24日UP