社会調査実習紹介
楽しい + さまざまな体験に満ちた調査実習を紹介します

社会調査って何だろう

安立清史(九州大学)

社会調査実習のおもしろさ

ずいぶん長く社会調査実習を担当してきました。山あり谷あり、成功したり失敗したり。でも、面白いです。社会学をやっている実感がいちばん得られるからです。これまでの試みの中で印象に残っているものをいくつか紹介しましょう。2014年に柳川市が「消滅可能性自治体」にリストアップされた時、私たちは柳川市や地元の高校生と連携・交流して2年間にわたって柳川の産業やシャッター通り商店街などをフィールドワークしました。そして若者目線での若者定住促進案を作って市長や市民のみなさんに提案しました。なかなか良い提案だったのですが役所は案外、若者や市民の意見を聞かないものだと思いました。また2016年の熊本地震のあと阿蘇の西原村の避難所を訪問してフィールドワークしたこともあります。仮設住宅の子どもたちと交流しながら被害状況を見たり復興の課題を調べました。村人の利害調整には外部からの中立的な支援仲介者が必要だと気づきました。現地に入らないと分からないことがたくさんありました。ここ数年はコロナ禍のためオンラインでしたが、それを逆手にとって全国各地の著名な福祉NPOのリーダーやメディア関係者に直接インタビューできました。

「答え」ではなく「問い」を深める

いくつか思うところがあります。社会調査は「答え」を得るためのものではなく、むしろ事前の予想のくつがえりを経験し、新たな「仮説」を作りだすためのものではないでしょうか。相手の言うとおり信じるのは要注意ですが、本や文献では考えつかないようなことが現場からは得られます。そもそも一年ほどの経験で「社会を分析」したり「社会問題への処方箋」など出せるものでしょうか。社会調査で見聞きしたことを性急に一般化しようとすると「上から目線」になりがちです。私たちは社会調査を「社会の診察」だと思ってはならないと思います。ましてや社会問題への処方箋をかく作業ではないのです。もっと虚心になるべきかと思います。でもこれがなかなか難しい。学生にとってインタビューで語られたことは「答え」に見えてしまいがちだからです。対等な目線でありつつ、その中に驚きと発見を見つける──これはかなり高度な作業です。社会の中の実践からうまれた知恵や工夫を見つけたときの驚きと発見は社会学そのものです。だから面白い。でも参加した学生たちに聞くと、案外、そういうところを見ていません。何気ないところから発見していく──それを学ぶのも社会調査実習かもしれません。

  • 2023年3月13日UP