野坂 真(専修大学)
専修大学社会学科では毎年2年生向けに社会調査実習を開講しており、受講者約10名ずつのクラスに分かれ学ぶ。2019年度に筆者が担当したクラスでは、東日本大震災の津波被災地・岩手県大槌町に住まう災害公営住宅入居者への調査を専修大学だけでなく岩手大学、明治学院大学、早稲田大学と連携して行った。ここではそのプロセスと得られた知見を紹介する。
写真1 大槌町内のアパート型災害公営住宅
写真1は大槌町に実際に建つ災害公営住宅の一例である。きれいな新築アパートに見えるかも知れない。では、住んでいる人々は十分に復興したと感じているだろうか?
今回の調査に先立ち筆者らが2016年に行った調査では、68%が「自分自身の復興の程度は半分くらいかそれ未満」と答えていた。このギャップはなぜ生じているのだろうか?あらためて調査を行うことにした。
本実習では、大槌町内における15歳以上の災害公営住宅入居者全員を対象とした全数調査を、質的調査(インタビュー)と量的調査(アンケート)とを融合させて行った。以下、そのプロセスである。
写真2 現地調査時のミーティングの様子
分析の結果、復興感は時間の経過とともに改善の傾向は見られた。しかし、2019年でも51%が「自分自身の復興の程度は半分くらいかそれ未満」と答えており、復興感は低調であった。低調な要因に、①経済的な暮らし向き、②心身の健康、③他者との関係性の質があることが示された。調査時点でも津波被災地の復興工事はほぼ完了していた。当事者の復興にとって「重要な何か」が工事だけでは得られないと言える。「重要な何か」をいかに知るか?災害が多発する日本で、社会全体が継続して考えるべきテーマである。
報告書の編集後記に、「岩手大学、明治学院大学の先生方や学生達と協力し、普段の学生生活では味わえないような経験ができたと思います」と受講者が感想を書いている。社会調査の目的は、客観的に証拠となるデータを集め社会の仕組みを実態に即して認識することである。そのためには、自身を客観視できるよう多様な人生と出会い、社会を見る解像度を上げることが重要と言える。津波で被災を経験した人々、他大学の学生や研究者は自身とは異なる多様な人生を歩んでおり、実習に参加しなければ出会うことはなかっただろう。本実習を通じ社会調査の目的を少しでも達成できたならば、筆者は本望である。