社会調査実習紹介
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地域調査を通じて社会をとらえる-地理学的観点からみた魚津市の調査

大西宏治(富山大学人文学部准教授)

どの大学でも地理学研究室では地域調査実習が実施されている。学問分野の特徴を反映して調査の目的は空間的な視点から社会の課題にアプローチするものが設定される。地理学などが実施する地域調査は特に「地域」という視点や地図に表すことができる現象に焦点をあてた社会調査ともいえる。

図1 魚津市の人口密度と保育園の立地 2010年度国勢調査より作成

地理学実習で地域調査をする際、調査前には地形図や住宅地図に代表される特定の目的に特化した地図類、角川書店の出版する『地名辞典』などを利用して調査する地域についての知識を整理する。それに加えて、人口や農業、商業、工業など様々な統計データが集落単位で公開されており、地図化も容易なため、あらかじめ統計データを反映させた地図である主題図を最初に作成する。図1は魚津市における女性就労と子育てに関する調査をしようと考えた学生が作成した主題図で、人口密度と保育園の立地を表したものになっている。

かつて、このような地図を作成するのは手作業だったが、現在ではフリーソフトの地理情報システム(GIS)やコンピュータ上で図を描くソフトウエアが普及したことで、地図をつくるハードルは下がっている。紙にインクを使って直接描いていた時代は、手先が少しでも誤ると完全書き直しになった。しかし、現在ではコンピュータの上で作成するのでやり直しがいくらでもできる。


写真1 インタビュー調査の様子

次に現地調査について少し説明したい。調査の目的に従って住民や企業、団体などへインタビューやアンケートを実施して、データを取得する。写真1はコミュニティバス利用に関するインタビュー調査の様子である。交通弱者の足として運営されているコミュニティバスは実際にどのような利用がされているのかを調査している。調査に際して一定の仮説をたてて取り組むが、インタビュー調査の中で、あらかじめ考えてもいなかったような話が得られて、自分たちの想像力の乏しさに気づかされることも多い。

地理学の社会調査が他の社会調査と大きく違うのは、調査したことを地図にして説明したり、地域の中で実態のある事象を使ったりしながら説明する点にある。現実の空間上にデータを展開することで、分布とか距離といった空間概念を利用しながらデータを説明する。社会調査はどの分野でも地域に入り込むものはかなり泥臭いものになると思うし、まとまるのだろうかという調査にもなる。しかし、地理学の場合、最後は空間という視点で整理しなおすことでそれなりの調査レポートにまとまる。

図2 魚津市で未就学児を持つ就業女性の生活時空間

図2は子育てしながら就労する女性の生活時空間を「時間地理学」という手法で説明した図である。横軸が空間、縦軸が時間を表し、祖母、Bさん、そして保育園に通う4歳児と小学校に通う6歳児の時空間行動の軌跡が記されている。Bさんは朝、4歳児を保育園に送り届けた後、出勤している。その後、小学生は学校が終わると学童保育へ向かうが、Bさんの就業時間が18時までと遅いため、子どもの祖母が自家用車で小学生と保育園児を迎えに行き、18時にはこどもたちに夕食を提供し、その間にBさんが帰宅する。このように祖父母の支援も得ながら、高い女性就業率が成り立っていることを示している。加えて、自家用車を利用したり、通勤距離の短い仕事も選択している。このように時空間の制約を克服しているために高い女性就業率が成立している。

このように調べたものを空間を通してみるとどのように見えるのかを考えるのが、地理学からの調査実習である。受講した学生たちに感想をたずねると、やはり最後は地図や空間で事象を説明できるようになることがよかったという感想が多い。様々な学問分野が社会調査をしているが、それぞれの分野には固有の特徴があるだろう。そして地理学の場合はやはり地図や空間から社会をとらえる点に特徴があるのだろう。

  • 2018年3月3日UP