社会調査実習紹介
楽しい + さまざまな体験に満ちた調査実習を紹介します

対話のプロセスとしての社会調査実習

土居洋平(跡見学園女子大学准教授)

社会調査実習は、自ら設定した問い(調査課題)を様々な手法の調査によって明らかにする、一つの完結したプロセスである。一方で、調査結果は報告書にまとめられ公表され、多くの社会調査実習において報告書は調査対象者へと配布される。場合によっては、調査結果を対象者らの前で直接報告する機会が設けられる。そうした場においては、調査結果は対象者等から様々な意見が出され、そのことが新たな調査課題へとつながることもある。このような観点で考えると、社会調査実習は大きな対話のなかの一つのプロセスでもあり、それは研究そのもののプロセスでもある。

ここで紹介する調査実習も、そうした研究のプロセスという側面を体験できるものであった。それは、2017年度に山形県西村山郡西川町大井沢という、人口200人程度の山間集落をフィールドにして行われた。まず、学生は、農村研究に関わる基本的な文献をもとに、山村地域にどのような課題があるかについて理解を深めた。また、これと並行して対象地域の資料調査を進め、介護や交通、農業、移住、女性の活躍、地域づくりのあり方といった個人の調査テーマにたどり着いた。そして、事前調査、本調査、追加調査等で合計10泊程度の時間をかけて、60名弱の住民等にインタビュー調査を実施した。また、調査結果は報告書にまとめられ、町図書館や調査対象者等に配布されている。

もちろん、これだけでもテーマの設定から先行研究の整理、調査課題の設定、実際の調査、報告書の作成と公表という、社会調査実習で求められる一連の過程を経験していることになる。しかし、多くの社会調査実習がそうであるように、この社会調査実習も得られる経験はこれに留まるものではなかった。

調査成果の現地での発表の様子

学生たちは、単にインタビューでのみ対象者と関わったわけではなく、本調査時には調査協力への御礼もこめて地域のイベントに協力をし、そこで地域に対する理解を深めていった。また、報告書完成後は、対象地域で例年行われている、地域づくりを考えるイベント(大井沢地域づくりフォーラム)において調査結果について報告し、その後の懇談の時間も含め数多くのコメントを得ている。コメントのなかには、感覚的に理解してきたことが明確になったといった評価もあれば、調査結果の解釈についての異論もあった。一部の学生は、それをきっかけに問題設定をアレンジし卒業論文のテーマとし、翌年に再度個人で調査を行った。また、卒業後も地域のイベントに参加・協力するなど、社会調査実習をきっかけに地域との関係を継続している学生もいる。

このようにして考えると、社会調査実習は一つの調査の体験に留まらず、次の研究へと展開し得るもの、つまり研究そのもののプロセスの体験にもなり得るのだ。また、それは、対象者との長い対話のなかの一つのプロセスという側面もある。多くの学生に、社会調査実習を通じて研究の醍醐味、調査の先にある対話を楽しんでもらいたい。

  • 2020年7月2日UP