社会調査実習紹介
楽しい + さまざまな体験に満ちた調査実習を紹介します

異種混合性が生み出すフィールド教育の可能性

小西公大(東京学芸大学教育学部准教授)

社会調査の持つ意味や魅力は、一言で語ることができない。特にそれが「他者」との出会いを生みだす「関与型」のフィールドワークである場合には、多方面からその意義について言語化が可能となるだろう。なぜなら、このような社会調査の方法論は、他者との関係性にこそ本義があるのであり、つまるところ社会関係そのものをどのように捉えるか、という問題に関わっているからだ。「調査」にあえて「社会」という語を冠するのであれば、必然的に我々は調査で生まれる様々な関係の変数をどのように評価することができるかという、とても大切で困難な作業に向き合わなければならない。

ここで紹介する調査実習は、そのような観点から「異種混交性」という言葉を1つの切り口として表現したものだ。本調査実習は、新潟県の佐渡島という離島社会で行われた「廃校舎」に関するものだ。少子高齢化が進み、全域に渡って「限界集落」が増加しているこの島では、小中学校の統廃合が急ピッチで進められている。そもそも学校は、周辺の集落を巻き込みながら「学区」というネットワークを形成しており、学校行事は子供に特化しない多様な人間関係を構成するための「コミュニティ・ハブ」として機能してきた。学校の喪失は、高齢化する集落の方々を繋いできたセーフティネットまでも失うことを意味する。本調査実習は、首都圏にある複数の大学の学生たちを主体として、集落が置かれた現状を把握するとともに、廃校舎を再利活用する方法を住民の方々と模索しながら進められる実践型研究の一環として行われた。

異種混交性は、まずもって調査のメンバー間で現れる。今まで出会ったことのない他大学の異分野の学生たちが、複数の教員たちと共同生活を行う。地元の集落センターを使った生活は不便そのものであり、一人一人が主体的に関わらないと生活もままならない。食材の確保や移動手段、お風呂に至るまで地元の方々の協力を得ながら進めなければならず、否が応でも複雑な人間関係に飛び込まなくてはコトが進まない。また調査対象は、廃校舎の再活用を通じてコミュニティの未来を構築しようとする地元の方々であり、当然学生たちも会議で意見を求められ、一緒になって校舎の掃除やメンテナンス、開催イベントに精を出す。

調査の合間に、地元の方にたらい舟の操法を教わった。

そこで出会う他者は、あまりにも多様な発想や意思を持っており、当初は困惑で頭がいっぱいになるだろう。参加学生だけではなく、教員も地元の方々も市の職員も、試行錯誤を繰り返しながら、コンセンサスを構築していくことになる。その中で心の交流が生まれ、課題や業務を超えた関係が構築されることも珍しくない。

このような経験は、首都圏での生活で得ることのできなかった濃密な関係を通じた、参加者それぞれの価値観の相対化を生み出し、他者を受容する包摂的な発想を生みだすことになる。他者を一方的に「理解」するのではなく、「受容」するためのフィールド教育のデザインが、社会調査には必要とされていると考えている。

  • 2019年7月10日UP