活躍する社会調査士
現役社会人として活躍する先輩からのメッセージです

渡邊木綿子(専門社会調査士)
2000年3月、東京大学大学院理学系研究科修士課程 修了
独立行政法人労働政策研究・研修機構調査部(統計解析)主任調査員

※所属は『社会と調査』掲載時のものです。

政策調査のやりがいとは

私は、独立行政法人労働政策研究・研修機構(厚生労働省所管の調査研究機関)で、主に労働行政の政策課題に関する調査を担当している。具体的には、政策の効果等を把握しつつ、さらなる政策課題を探るような、アンケート調査やヒアリング調査を行ってきた。

これまでに経験した35本以上の調査を振り返ると、改正パートタイム労働法への各事業所の対応状況等について把握した調査がもっとも印象深い。その後、無期転換ルールや社会保険の適用拡大等、法規定をなぞりながら企業や労働者の対応状況・意向を尋ねるスタイルで、一連の調査を展開することとなった原点でもある。

同調査では、パートタイム労働者を雇用する事業所の6割超で、労働条件通知書等における特定事項の明示などの雇用管理上の対応が行われる一方、職務等が同じ正社員(通常の労働者)側の待遇を引き下げたり、フルタイム化して同法を回避したりといった反作用は殆どみられない現状が明らかになった。同時に、半数弱の事業所では正社員転換推進措置(義務)が実施されていない実態や、職務も人材活用も契約期間の長さも同じ均等待遇原則の対象者は極めて僅少である事実も浮かび上がり、とくに後者は旧パートタイム労働法・第8条(差別的取扱い禁止規定)の形骸化を示唆する結果として、緊張しながら公表に至ったのを覚えている。

こうした調査結果は、厚生労働省「今後のパートタイム労働対策に関する研究会」で、現状の把握資料として引用され、「今後、第8条の規定を活用して雇用管理の改善を進める余地は小さい状況」であり、「日本の雇用慣行の下、3 要件がパートタイム労働者の均等待遇の確保を図る手段として合理性を有しているか、単に企業のネガティブ・チェックリストとして機能しているのではないか(中略)などの点を含め、その在り方について検討する必要があると考えられる」こと等を提起する、報告書が取り纏められた。

このように、自身のかかわった調査が研究会や審議会、国会等で活用されると、非力ながらも政策形成に、確かに寄与しているというやりがいが感じられる。反面、その影響や責任の重さに身の引き締まる思いで、如何に中立的な立場・観点から、調査を企画・設計、実施、集計・分析、公表することが重要であるかを銘肝するようにしている。

そうした調査を行う上では、ときに異を立てることも恐れず、議論を尽くすことが欠かせないが、「調査の問題点や妥当性等の指摘はもちろんのこと、多様な調査手法を用いた調査企画能力、実際の調査を運営管理する能力、高度な分析手法による報告書執筆などの実践能力を有して」(社会調査協会HPより)いることを裏付ける、「専門社会調査士」資格が味方してくれるようで心強い。これからもより良い調査の実現に向け、倦まず撓まず精進することで、社会調査協会への感謝に代えたい。
(※『社会と調査』29号(2022年9月)より転載)

  • 2025年4月11日UP