工藤 遥(専門社会調査士)
2020年3月、北海道大学大学院文学研究科人間システム科学専攻博士後期課程修了、博士(文学)
2020年4月より、拓殖大学北海道短期大学農学ビジネス学科助教
※所属は『社会と調査』掲載時のものです。
社会調査に基づく社会学研究の魅力を知ったのは、学部生時代の卒論研究がきっかけでした。子育て支援制度の国際比較をテーマに研究に取り組んでいた際、各国の子育てカップルを対象としたインタビュー調査をもとに、夫婦間における育児・家事の役割分担とジェンダー規範意識との関連を理論化した社会学の先行研究に出会いました。調査対象者の「語り」をとおして子育て家庭の生活実態や個人の価値観、夫婦の関係性が生き生きと伝わってくるのが非常に面白く感じました。また、インタビューや観察で得たデータを分析し理論化につなげる研究手法があることに、当時はたいへん驚いたことを覚えています。
修士課程からは社会学を専攻し、基礎から社会調査を学びながら、初めてフィールド調査を体験しました。社会調査法の演習授業で、子育て支援施設の利用者を対象としたインタビュー調査を行ったことをきっかけに、自ら他の施設でも調査を行い、修士論文では子育て支援施設の機能とそこで形成される利用者間のネットワークに関する分析をまとめました。
博士課程進学後は、子育て支援施設を利用していない世帯も含めた分析を行うために、調査対象を広げて量的調査にも取り組みました。調査の計画から調査票の設計、調査依頼、調査票の配布・回収、データの入力とクリーニングなど、全ての作業を自ら行いました。分析にたどり着くまでに膨大な時間と労力がかかりましたが、独自の調査で収集した一次データを使って研究することに大きなやりがいを感じ、その後も日本各地で子育て支援事業の事例調査などに取り組みました。
さらに、博士課程では在学中に社会調査士と専門社会調査士の資格を取得し、非常勤講師として社会調査論や社会調査法演習の授業を担当しました。講義では、調査法や調査の実際について具体的にイメージしてもらえるよう、自身や他の研究者が行ったフィールド調査の事例を数多く紹介しました。調査法の演習でも、自ら行ってきた社会調査の経験が学生への助言や指導において大いに役に立ちました。
社会学分野の教員公募では現在、専門社会調査士の資格が応募条件になっていることが少なくありません。私自身も、非常勤講師や現在の勤務先に就職する上で、専門社会調査士の資格と社会調査に基づく研究と教育の実績がとくに評価されたと感じています。また、現在担当しているゼミナールでは、学生たちにフィールド調査に取り組んでもらっていますが、調査の計画から実施、分析、成果報告までの社会調査の一連のプロセスは、コミュニケーション能力やアカデミックスキルを鍛える教育機会としても有効であると実感しています。
今後も、研究者・教員として、フィールド調査に基づく研究を積み重ねながら、社会調査の強みと魅力を活かした教育に取り組みたいと思います。
(※『社会と調査』30号(2023年3月)より転載)