2021年2月16日
2021年2月16日
2019年2月7日
2018年3月19日
記録・構成:愛知大学文学部人文社会学科 准教授 植田剛史
愛知大学文学部人文社会学科の社会学コースには、もともと村落研究・地域調査の拠点だったこともあって、社会調査教育に力を入れてきた歴史があります。2016年度の入学生からは社会調査士を取得できるようになり、資格取得に必要な科目のうち社会調査実習(G科目)を含む4科目を必修科目として設置しています。2018年度には54名、2019年度には64名が社会調査士(キャンディデイト)を取得しており、多くの資格取得者が見込まれています。
今回は、卒業間近の4年生から松田海門さん、真保了輔さん、そして今まさに社会調査実習の報告書を執筆中の3年生から酒井萌さん、栗田留加さん、杉戸皓哉さんに集まってもらって、社会調査士についてざっくばらんに語ってもらいました。以下は、2020年1月9日に実施したその座談会の記録です。
酒井
よろしくお願いします。今日集まったメンバーは全員既にキャンディデイトを取っていますが、まず、皆さんは社会調査士って、そもそもどうして取ろうと思いましたか?
杉戸
僕の場合、社会調査士って事前には全く知らなかったので、2年生で社会学コースに入ってから、なんとなく「流れ」で・・・
栗田
私も社会学コースに入ったときのガイダンスで初めて知った感じです。最初は周りのみんなが取るから取ろうって感じだったんですけど、大学で学んだ授業が資格になるってすごいなと後々気がついて、取るっていう判断をしてよかったと思っています。
酒井
私は、お金もかかるし就活に使えるかも分からないし、やめておこうかなと最初は思って、実は第1回目のキャンディデイト申請では申し込まなかったんです。でも、せっかく社会学やってるんだしって思って、後で取ったんですね。
社会学コースに入っても社会調査士を取らない選択もあり得たのに、やっぱり資格を取ろうと思った「決め手」って何でしたか?
真保
社会学には大学に入る前から興味があったんですが、社会調査士のことは社会学コースに入るまで知りませんでした。愛知大学は必要な科目が全部揃っていて、必修の授業も結構あったので条件は整っているなと。
お金はかかるけど、ちゃんと授業の単位を取れば確実に資格が取れるのは大きかったですね。
松田
社会学って、何か具体的なスキルを身につけて卒業という感じではないけれど、社会調査士という形になることで、自分が社会学をやってきた証明になるなって思って、僕は資格を取ることにしました。
酒井
ところで、私たちは今ちょうど報告書を纏めているところなんですが、去年の社会調査実習を振り返ってみてどうですか?
真保
僕たちは、豊橋のまちづくりに関する行政の取り組みを調べるということで市役所とかにインタビューに行きましたし、アンケート調査もやりました。授業でやったデータ分析の方法とかは、集計のときに役立ちましたね。
松田
僕のところは、愛知・三重・静岡の食文化とまちづくりがテーマで、伊勢神宮のおかげ横丁の運営主体とかにインタビューしました。
インタビューは、自分たちの知りたいことを相手に理解してもらうところから始まるわけですが、そのすり合わせに苦労しましたね。でも、やっぱり本には書いてなくて、インタビューでしか聞けないことってあるんですよね。
「こういうことを明らかにしたい」って自分たちが思ったことについて、どの調査方法を使うとその情報が手に入るのかっていうのは、調査法の授業での蓄積あってのことで、質的調査法の授業で学んだことは少なからず活かせたんじゃないかと思います。
でも、インタビュー相手に読まれる報告書を書くのは、大学のレポートより怖かったですね。必ずしも喜ばれることばかり書いているわけではないので・・・
杉戸
でもインタビューって、本当にデリケートな部分は、かえって聞きにくかったりしませんか?
松田
卒論なので話がちょっとずれますが、同じゼミの人が、ディズニーランドの中でお客さんとかキャストにインタビューしようと試みたんですが、やっぱりできなくて、視点を変えてディズニー好きの人のインタビューに切り替えたんですね。
でも、どこがデリケートかは、やってみないことには分からないし、だから、とりあえずやるしかない。意外と答えてくれるかもしれないし、逆に意外と「これ無理なのね」ってこともあるので、実践あるのみですね。
酒井
私たちが今やっている調査実習は、愛知大学の学生の多くが地元に留まるのはなぜかというテーマで、学生や卒業生にかなり深く話を聞いてきたんですが、「なぜ地元に残るのか?」って、誰も自覚的には考えてないし本人にも分からないことだから、それを聞き出す質問を考えるのにすごく苦労しましたね。
あと調査実習って、一人だけではできない調査なのは確かだけど、人が多いからこそ難しい部分はありますよね。グループで決めることはいっぱいあるけど、誰かが決定権を持っているわけでもないし、何か正解があるわけでもないから、結局締め切り間際まで作業できる人が作業することになったり、インタビューも、質問を考えた人と実際に質問する人が違うと意図が十分に分からないまま質問して、欲しい情報を得られなかったり・・・
酒井
これだけ苦労して取る社会調査士は就活に活かせるのかって、ぜひ伺いたいんですが、実際どうでしたか?
真保
履歴書の資格欄に社会調査士(キャンディデイト)って書いたんですけど、「これはどういう資格なの?」って尋ねられたときに端的に説明するのに苦労しましたね。
興味は持ってもらえるけど社会調査士はあまり知られていないので、まず説明から始めないといけない。本当は、資格をとるために大学で何を学んで、それを仕事にどう活かしたいかとか話したいけど、そこに何分もかけると長くなりすぎるので・・・
松田
就活で受けたのはIT系と、サービス・小売りだったんですが、「社会調査士って何?」って聞かれることは多くて、特にIT系では毎回尋ねられましたね。
社会調査士って「この業界に行くためにこの資格が必要」みたいなものではないけど、少なからず自分が大学で頑張ったことではあるので、その証明として資格があるんだとは思っています。
酒井
逆に社会調査士っていろんな活かし方が考えられるから、それをどう説明するかですね。実際には卒業しないと分からないと思うんですが、仕事でどう活かせそうかとか、何かありますか?
松田
卒論でも半構造化インタビューをしたんですけど、インタビューを繰り返していくなかで、これ尋ねた方がいいかなっていうのがどんどん出てきて、インタビューの精度が上がっていくっていうのを経験して。
そうやって「常に精査していく」っていうのは何事においても必要なのかなとは思いますね。
真保
文系でも、たとえば人事と労務とか会計とか、いろいろなデータを扱うと思うんです。そのデータを見てどこが問題かを考えるっていう点では、結構使えるんじゃないかな。個人情報の扱い方っていう意味でも・・・
松田
でもそれは社会調査っていうよりも、社会学を学んだからっていう方が大きいんじゃないかな? 出自とか個人の情報を慎重に考えなきゃいけないっていうのは・・・
酒井
就活ではないですが、生活するうえで、いろんなデータの見方が変わったなとは思いますね。
調査法の授業を受けて、調査実習で自分でも実際にやってみると、調査の中身がわかるじゃないですか。今までサラッと見ていたデータでも「これってどういう調査してこの結果になったんだろう?」とか思うようになったり・・・
真保
たしかに、「本当にこのデータ合ってる?」ってところからまず入るようになりましたよね。
酒井
いろいろヒントをいただいて、ちょっと前向きになってきました・・・と言っているうちに時間ですね。今日はありがとうございました。
写真撮影:栃窪賢人