2019年2月7日
聞き手:立正大学心理学部 准教授 髙橋尚也(T)
立正大学心理学部対人・社会心理学科では、「社会心理調査実習Ⅰ・Ⅱ(G科目)」を担当する教員ごとに大テーマを設け、受講生が3〜6人くらいのグループを組み、大テーマに対しどのような角度から切り込むかを考え、量的調査を実施しています。「社会心理調査実習Ⅰ・Ⅱ」は3年次に開講され、全クラス合わせて90名近くの学生が履修しています。12月には石橋湛山記念講堂(大講堂)で発表会も行います。卒業間近の4年生の甲斐紗也佳さん(K)、橋爪彩乃さん(H)、発表会を終えたばかりの3年生の三島爽暉さん(M)にお話を伺いました。
Q.さて、実習を履修した感想はいかがですか?
(H)
仮説を立てて、調査をして、解析をしてまとめていくこと、とにかく1年間かけて1つのことを突き詰めるのは、本当に大変でした。
(K)
グループでやることが大変でした。時間を合わせたり、来ないメンバーがいたときに共有したり指示出したりすることが大変でした。
(H)
授業時間外に週に2・3回会って、分析を進めたり発表資料を作ったりと工夫してやりました。
(T)
どんな仮説でデータを取ったのでしたっけ?
(K)
ブームの中でもキャッチーなものにしたいと思ったので、「異性からの食事の誘いにのる条件」を分析しました。意外と誘いに乗るんだなということがわかったことと、サンプルがあまり誘われた経験を持っていないことがわかり、よく日常の話題にのぼるけれど、全体ではそこまでではないんだと。ただ誘いによくのる層がいることもわかりました。
(H)
「パンケーキブーム」に注目し、行列に並ぶ人とそうでない人の違いを分析しました。仮説は安易に考えて進めたのですが、実際にデータを分析していくと、友達と一緒であることを好むけれど、友達よりも流行を先取りしていたい人が並ぶ、といった具体的な人物像が見出せました。
(M)
発表会直後ですが、「他者に共感することを学んだ」という収穫がありました。他人が考えていることを自分がこうなんだろうなと推測することは真の共感ではなくて、他人が置かれたある状況に自分も身を置いて経験して、それを言葉にするのが共感なんじゃないかと考えるようになりました。私は「髪を染めることが流行っているのはなぜか」に注目し調査を行いました。私は髪を染める理由が全くわからなくて調べようと思ったのですが、それだけだとなかなか仮説やデータの解釈ができなくて。発表会1日だけですけど、スプレーで髪色を変えてみたんです。そのときに、ピアスとかつけてみたいなとか格好を気をつけたいなとか思ったので、あ、「それがこの結果の意味か」とわかるようになりました。
(H)
確かに、体験してわかることというのは調査実習の中でたくさんあって、全てのケースで自分が体験できるかどうかわからないけど、大事ですよね。
(T)
M君は、どんなきっかけでそう感じるようになったの?
(M)
調査実習中で、何でもそうかもしれませんが、自分一人でできることには限界があって、協力して成し遂げられることや、いろいろな視点を持ったメンバーが取り組むことで得られる成果があるんだと思うようになりました。
Q.「調査実習」で得たことはありますか?
(K)
グループで大きな何かを作り上げる授業がなかったので、人とうまくやりつつ、達成できたことがよかったです。
(H)
段取りを考えて作業をする力を身につけられたと思っています。分析でも、ただ解析をかければよいのではなく、その先に何が得られそうかという見通しをもったり、他のメンバーとの調整・スケジューリングをする力がついたりしたと思います。
(K)
他に、就職活動で話せることよかったことです。「調査実習で学んだことを会社でもいかせます」と。
(H)
社会調査士関係の科目を履修して、TVや新聞などでグラフを見たときに、その背景(調査方法やサンプル数など)を気にするようになったかもしれません。提示されても鵜呑みにするのではなくて、いろいろな角度で見ることができるようになったと思います。
(M)
1年や2年次の調査関係の授業が、調査実習につながってるんだなというのがやっていてわかりました。
Q.「社会心理調査実習Ⅰ・Ⅱ」をはじめとして、社会調査士関連科目の履修したことは、皆さんの就職活動や進路に何か役立つことがありましたか?
(H)
調査実習で学んだことを話すことはネタになりました。グループでこんなふうに一つのことを成し遂げました...と。調査とは関係ない業界に就職するんですけど。
(K)
履歴書に書けるということでしょうか。私も調査と関係ない業界ですが、調査実習で「他の人と対人関係をこういうふうに円滑に築くよう努めた」というようなことを就活では推して話しました。
(T)
面接官の反応は?
(K)
普通に「ふーん」って感じです。リアクションは大きくないかもしれないですが、たまに「どんな結果だったの?」など掘り下げて聞いてくれる人もいます。
(H)
「社会調査士」を実際に知っている面接官はかなり少ないように思います。
Q.言いにくいかもしれないけれど、社会心理調査実習や社会調査士の改善点を教えてください。
(K)
先生によって進度が違うとことが気になります。髙橋先生のところがいちばん面倒だと...
(H)
実習中は、どうしてもグループ内の作業に集中してしまうので、分析中に他のグループがどんな進度か、何をしているのかを知れたら、自分たちのグループの指針になってよいかなと思います。
(K)
あと、「社会調査士」を取得して何になるのかはあまり理解している学生は少ないと思うので、そのあたりの見通しを示してほしいです。
(M)
調査実習の単位数や授業時間を倍にできないんですか。調査実習は大変だと聞かされていましたけど、やはり、やってみたら授業外学修の時間がハンパじゃなかったので。
(H)
講堂での発表会が長時間にわたるので、集中が切れて耐久戦になっちゃうのが残念かもしれません。
(M)
講堂での発表会がどうしても学科の内輪感が強かったので、緊張感がそこまでないので、外部の人に来てもらうとか企業の人に来てもらうといった工夫があってもいいのかもしれません。
Q.もし、後輩に「社会心理調査実習Ⅰ・Ⅱ」を薦めるとしたら、どのような点ですか?
(H)
自分たちで一連の調査過程をやってみたことで、社会心理学の教科書に出ている知識の裏側には計り知れない研究の努力があるんだなと考えられることです。
(K)
就職活動で話すネタになることだと思います。何より私は調査実習が楽しかったんです。みんなとおしゃべりもできて、結果的に発表会では賞も取れたので。
(H)
卒論で困った時に役立ちます、調査実習の時どうだったっけと思い出しながら取り組みました。
(K)
調査実習やっていないと卒論は書けないと思います。また、調査実習のことは大学生活の忘れられない経験です。どこかで対人・社会心理学科卒の人に会ったら、「調査実習」が共通話題になると思います。
(T)
調査実習担当者全員が心がけていることは、「ヒントは出すけれど答えは学生に探してもらう」ということです。最善の答えが導き出せなくても、データから自分たちで答えを見つけ出そうと努力する姿勢、定説であっても疑ってみる姿勢を養いたいと考えています。みなさんのお話を伺って、おおむね狙い通りと思うと同時に、集団内での対人関係スキルや合意形成スキルも獲得できているようです。課題は、授業外学修や社会調査士の知名度向上ですね。ありがとうございました。
(M)
髙橋先生は「ヒントのヒント」しかくれないじゃないですか!(笑)