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2015年8月5日(水)
ラポール
山口大学名誉教授
小谷 典子(三浦 典子)
くつろぎ
ラポール
山口大学名誉教授   小谷 典子(三浦 典子)
2015年8月5日UP

社会調査の概論で、面接調査を行う際には、調査対象者に対していきなり質問するのではなく、「ラポール」、すなわち、話してもいいなという情緒的なよい関係を作ってから始めることが必要であることを学ぶ。ラポールは、アンケート調査票を用いて調査を行う場合にも当然必要である。

私は大学1年生の時に、いきなりフィールド調査を行う機会を得た。社会学も社会調査概論も学ぶ前の話である。この調査は、福岡県の三井三池炭鉱の炭鉱長屋に住む女性たちに対する家計調査であった。この度、いろいろ議論を巻きおこしながらようやく世界遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」に含まれる施設のある場所である。

その時は、何のための調査か詳細はわからなかったが、後に刊行された労働組合史の本をみると、戦後最大と言われた労働争議を支えた「主婦たち」の生活実態を明らかにするためのものであった。

この調査を契機に、社会学研究室に所属してから、先輩の卒業論文のための「博多山笠」の担い手である商店主に対する調査、内藤莞爾先生の末子相続に関する離島での調査、鈴木広先生の調査実習での町内会調査などから、NHKの生活時間調査や投票行動調査のようなアルバイト的な調査にいたるまで、学生時代には面接調査は日常茶飯事であった。

研究職に就いて以降、研究費を得て大量の対象者に対するアンケート調査を行う場合には、調査機関に調査を依頼したり、郵送調査も実施したりした。しかし、調査の醍醐味は、調査対象者と向き合い、自分では経験することのできないさまざまな生き様を直接知ることができる面接調査にある。

調査票のないライフヒストリー調査はもとより、アンケート調査に入る前も、玄関先に植えられた花を愛でながら世間話をしたりして、相手の生活に思いをはせながら調査を始めれば、調査はスムーズに進み、調査そのものを楽しいものにしてくれた。

最近、ちょっとした知り合いが、こちらはたずねもしないのに、自分の身の上や生き様を突然しゃべり出す場面にたびたび遭遇するようになった。そんな個人情報まで話していいの、と思われる内容まで聴かせてくれるのである。

ひょっとすると、これまで積み重ねてきた面接調査を通じて、相手から何かを聴き取ろうとする姿勢が、体に染みついてしまったのではなかろうか。あるいは、対面している人の話を聴いてあげようという目線に、自然になっているのではなかろうか。

「ラポール」は、面接調査に必要なことであるが、調査実習において学生たちにいきなり求めることは難しいかもしれない。長年の調査の経験によって初めて可能かもしれないが、必要なことは、調査票を作成する時も、調査を行うときも、常に、調査対象者の目線にたつことであろう。