一般的な語とはいえないかもしれないが、機関研究(Institutional Research, IR)とは、大学が、みずからの教育研究活動や経営の改善を目的として実施する調査研究をさす。米国ではその一環として同窓会の組織化が1930年代にすすんだが、日本では中央教育審議会の2008年の答申において言及され、関係者には注目されるようになった。
機関研究の内容は多岐にわたるが、主なものに、大学の事実情報の把握と整理、入試の結果や学生の成績の分析、大学評価に必要な資料の収集と整理、在学生や卒業生を対象とした社会調査、同窓会情報の整理などがある。その特徴のひとつは、調査研究が大学の業務として行われ、結果の公表が必ずしも想定されないことにある。
社会調査に焦点をしぼると、大学によっては、社会調査や統計分析に精通していない教職員がその担当者となることがある。そのさい、大規模大学であれば専門家の助言を学内に求めることもできようが、小規模大学では学内に適当な人物が見あたらず、かといって学外の専門家に相談することもはばかられるという事態になりかねない。これに対処するものとして、米国ではリベラルアーツ分野などの小規模大学がコンソーシアムを結成し、それと契約した調査会社が、学生を対象とした社会調査の実施と、調査結果の定型的な分析を妥当な金額で受託している事例がある。日本でも類似のコンソーシアムを設立する動きはあるが、本格的な活動にはいたっていない。
本協会の目的は、質の高い社会調査の普及と発展をめざすことにあるが、社会調査の信用を損なうものの代表例として、怪しげなアンケートや誤解を招く集計分析などがあげられよう。学術研究の世界では、それらは成果の発表に対する相互批判によって淘汰されるが、機関研究はそうした場に登場しないことがある。このようなことは、高等教育にかぎらず、さまざまな分野の社会調査であり得るように思われる。
古典的な専門職である弁護士の活動には、法廷での弁論とともに顧問業務(文書作成や助言)がある。社会調査士にひきつければ、前者は社会調査の実施や分析にあたろうが、授業や学生への指導を別として、後者はあまり行われていないのではないか。その形態としては、社会調査に関する講演会やセミナーのように幅広いものから、特定の社会調査について指導助言を行うものまでがあろう。顧問業務には守秘義務や利益相反の回避といった倫理規定をともなうこともあるが、こうした活動は、質の高い社会調査の普及と発展に資するとともに、社会調査士資格の価値を世に知らしめるよい機会ともなるであろう。