横田一平(社会調査士)
早稲田大学文学部 社会学コース 卒業
個人事業主(屋号:Senseis)
※所属は『社会と調査』掲載時のものです。
私は、大学時代の友人と「家庭教師と生徒をLINEでつなげる『Senseis(センセイズ)』」というウェブサービスの開発運営をしています。なかでも、商品企画と広報戦略などのマーケティング分野を担当しています。
ウェブサービスのマーケティングと聞くと、華やかなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、むしろ泥臭いことばかりです。利用者のニーズは何か、広く認知してもらうにはどうすればよいかを日々考えています。とはいえ、自分の頭だけで考えていても所詮「机上の空論」にしかならないので、利用者の声をできるだけサービスに反映しようと努めています。しかも私の事業の場合は、家庭教師・生徒・生徒の保護者の三者三様のニーズを満たすことを目指さなければなりません。
しかしながら、「自分が本当に欲しいモノは何か」を言語化できる人は多くありません。言語化されない潜在的ニーズを見つけるには、インタビューだけでなく、行動観察やデータからの推測などの様々な手法をとる必要があります。
ニーズを探るために、私の場合はマクロな視点から市場環境を分析して後述の「市場感」を踏まえた上で、ミクロな視点から利用者個人に注目しています。
文部科学省やシンクタンクなどの調査データを取得して分析することで、事業から利益を生み出せるだけの市場規模があるかどうか、いわば「市場感」を確認します。さらに市場の中から参入余地のある一部分に注目して「狙い目」なセグメントを見つけ出します。そのセグメントに訴求できそうなサービスのプロトタイプを作成してテストユーザーに提供し、利用した感想や品質向上のための要望を聞くインタビュー調査を実施します。彼らから具体的なニーズの把握を試みることで、商品コンセプトを見直したり、別の市場セグメントに狙いを変更するかどうかを検討したりします。
サービスを開始してからは、顧客獲得のためにウェブ広告を出します。ウェブ広告は即座に広告の結果を数値化してくれますが、そのデータだけでは偶然の結果ではないと判断しきれません。充分なサンプルサイズと期間が確保されているのかなどのデータとそのデータの取得方法に妥当性があるかは、自ら判断しなくてはなりません。
正直に言うと、社会調査士プログラムを受講していた当時は「アカデミックな内容ばかりでビジネスにも活用できるのかな」と疑問に思うことも多々ありました。しかし、現在では社会調査士になる過程で学んだノウハウを毎日のように活用しています。
最近気づいたことですが、人の「気持ち」をどれだけ広く、深く、具体的に拾い上げられるかが、円滑に事業活動をするコツだとわかってきました。その「気持ち」の把握のために、学生時代に得た社会調査や統計学の知識はもちろん役立っていますが、それ以上に各種データを検証し、調査手法に対して誠実に向き合い、現実に近いデータを取得・分析しようとする「社会調査のマインド」こそが、いまの私を動かしているように思います。
(※『社会と調査』27号(2021年9月)より転載)