飯田 豊(専門社会調査士)
1999年3月 中央大学理工学部卒業
一般社団法人新情報センター勤務
※所属は『社会と調査』掲載時のものです。
入社初日に先輩から渡された教科書は「社会調査の基本」(杉山明子、朝倉書店)であった。調査実施にかかわる様々な業務を経験するなかで何度も読み返し、調査全般にかかわる知識や考え方の基本を学んだ。現在では、私が後輩にその教科書を渡し、調査業務の一つの工程が終わるごとに、一緒に復習をしている。
さて、調査業界に身を置いてから、実に多くのテーマの調査実施に携わることができた。調査のテーマは、治安、臓器移植、防衛問題、外交、高速道路、日本語教育、食育、インターネット利用、少子高齢化対策、青少年育成、外国人労働者、消費者教育、介護、働き方、薬物、人権など、社会問題に関することが多く、仕事を通して多少なりとも社会貢献できていることを、あらためて感じているところである。
私が勤務する一般社団法人新情報センターには様々な部門があり、各部門の業務内容はそれぞれ刺激的で学ぶことが多いのだが、そのなかで個人的に最も胸が躍る瞬間は、“集計されたばかりの調査結果を誰よりも先に知る”ときであろうか。同時に、それらのデータは調査員管理部門、調査員、集計部門、監査部門の各担当者の力が結集された調査結果であることを噛み締めながら調査集計結果を確認している。
以前に所属していた調査員管理部門にいたときには、会場調査や訪問調査のフィールドワークを経験し、数年前には50人程度の個人を対象とした訪問調査の調査員として辛酸を嘗めた。10回ほど訪問を繰り返してようやく対象者のご家族に会えた経験や、比較的接触しやすい週末の夜でも会えず、たまたま火曜日の夜に訪問したところ、その日が定休日のために対象者と会えたという経験は、いまも忘れられない。現代を懸命に生きる人々の忙しさ、集合住宅居住者との接触の難しさ、不在率の高さを肌で感じ、あらためて現在の訪問調査の困難さを実感することとなった。
このように様々な部門で調査業務の一端を担ってきたが、常に感じることは「調査員無くして調査は成り立たない」ということである。調査員は、私がフィールドワークで経験した何百倍もの苦労を調査現場で味わっている。最近では、訪問調査に加え郵送調査やオンライン調査を併用する方式を取るケースが増えている。不在率の増加、調査に対する不審感、個人情報保護意識の高まり等、私がこの仕事に携わってから、調査をめぐる環境は大きく変化している。質の高い調査を維持しつつも、対象となる方が気持ちよく調査に協力いただけるよう、対象者の立場に立った調査企画力、調査遂行力が一層必要となっている。
令和という新しい時代を迎えた今、調査業界に身を置くリサーチャーの一人として、どうすればより多くの国民や企業等から気持ちよく調査に協力してもらえるのかを考えつつ、調査手法や対象者へのアプローチ方法等、時代に合ったスタンダードを一つの会社だけでの議論ではなく、業界全体で考えていかなければならない。
(※『社会と調査』24号(2020年3月)より転載)