活躍する社会調査士
現役社会人として活躍する先輩からのメッセージです

井上雄大(社会調査士)
2015年3月 金沢大学人間社会学域人文学類社会学研究室 卒業
Next Commons Lab 南相馬勤務

※所属は『社会と調査』掲載時のものです。

地域の課題に取り組むことのやりがい

大学卒業後、臨床検査会社の事務系総合職として約3年働いたのち、現在はNext Commons Lab 南相馬という団体でコーディネーターとして働いている。

南相馬市では,地域おこし協力隊の制度を使って都市部からの移住人材を募り,地域課題の解決や地域資源の活用を目指したプロジェクトを通して、なりわい作りを進めている。プロジェクトを通して起業を志すメンバーは、協力隊の報酬が出ている3年のあいだに事業の自走を目指し、卒業後も引き続き地域で活躍するプレーヤーになることが目標だ。コーディネーターは、プロジェクトを推進する起業家の採用募集と起業支援、コミュニティ形成などを主な業務としている。最大10人の起業家と3人のコーディネーターで形成される移住者コミュニティでは、それぞれが助け合いながら地域での生活を確立し、互助的なネットワークを築くことも目的のひとつだ。

現在の業務は社会調査士の資格とは直接の関係はないものの、改めて思い返すと、調査実習などで学んだものの見方や考え方が強みとして活きている部分があるように感じた。

例えば、まず最初に「できるだけ筋のいい問いをたてる」ということが挙げられる。実習などでアンケート調査を実施する場合、限られた機会のなかで最大限の効果を得るためには、「知りたいこと」がどのようにすれば測定できるのかを考え、問いの精度を上げていく必要がある。知りたい結果から逆算し、それに沿った分析及び質問方法を選び、誘導的にならないようワーディング一つひとつを精査するという調査の手順は、現職でのイベント企画・運営に活かされている。

来てほしいターゲット層や目的から逆算して、そこに訴求するための効果的な手段を選び、イベントの企画を立てて集客をする。一見、調査とは遠い世界だが、知りたいことから逆算して筋のいい問いをたてるプロセスと、企画立案から実施の流れとには、同じ要素があると思う。

加えて、まさに地域の課題を扱う仕事でもあるため、研究領域との連携も今後は進めていきたい。南相馬市ではほとんどの起業家が着任して1年未満のため、具体的な話はまだ出ていないものの、これから事業の軸が固まるなかで、連携できる可能性はあると考えている。課題のリサーチや他地域との比較において先行研究を参照することや、事業を通して得られたデータを研究に活かしていただくなど、関わり方はたくさんあるのではないだろうか。そこに、社会学と地域課題・社会課題とを繋げるコーディネーターとして、自分が学んだことを活かせる場面があると思う。

東京一極集中や地方の衰退、高齢化・人口減少など、日本が直面する社会問題は数多いが、東日本大震災及び福島第一原発事故後の福島県南相馬市という課題先進地域でそれらに取り組めることは、これからの社会にとってたいへん意義のあることだと思いながら日々働いている。社会学や社会調査を学んだ方々が、それらの学びを何らかの形で役立てていただけることを願いつつ、私自身も学びを更新し、よりよい社会を一歩ずつつくっていきたい。
(※『社会と調査』24号(2020年3月)より転載)

  • 2022年7月13日UP