2025年7月25日
社会階層研究者にとって、末尾が5の年は重要な意味がある。10年に一度行われる、社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)の実査の年だからだ。今年2025年は第一回調査が行われた1955年から数えて八回目の調査年であり、2025年社会階層と社会移動全国調査の実査が3月から開始されている。私は東京大学の藤原翔先生とともに、SSM2025の共同代表を務めている。
SSM調査は日本の社会階層研究をけん引してきたといっても過言ではないだろう。SSM調査によって集められた、本人や家族の学歴・職業についての詳細な情報をもとに、世代内・世代間移動や不平等の状況に関する知見が積み上げられてきた。SSM調査のデータはデータアーカイブを通じて公開され、研究者にとっての貴重な共有資産となっている。
SSM調査は継続性を保ちながらも、社会の変化に合わせて設計が変更されてきた。たとえば、1985年調査では初めて女性が対象に含まれ、2015年調査では対象者の年齢が69歳から79歳へと拡大された。2025年調査においても、社会の変化を踏まえた調査設計の変更が行われている。近年の社会変化の一つとして、日本に暮らす外国籍者の増加が挙げられる。出入国管理政策の変更により、日本に暮らす外国籍者は1990年代から急増し、2024年には1990年時点の3.5倍、総人口の3%に達している。このような状況にもかかわらず、SSM調査はこれまで日本国籍を持つ人のみを対象としてきた。そのため、日本に暮らす外国籍者の階層やその規定要因について、日本国籍者と比較することは困難であった。外国籍者が調査対象とならなかった背景には、外国籍者を無作為抽出するための台帳にアクセスできなかったことがある。2012年から外国籍者も住民基本台帳に掲載されるようになったことでこの状況が解消された。そこで、2015年調査では外国籍者を対象とした小規模なパイロット調査が実施された。2025年調査ではこれを発展させ、外国籍者を対象とした多言語での郵送調査(オンライン調査併用)を実施する。調査方法は異なるものの、日本国籍者に対する本体調査と可能な限り質問を合わせることで、比較可能性を高めている。
近年の社会変化の中には、調査実施の障壁となっているものもある。SSM調査の核となる職業経歴は面接調査でなければ聞くことが難しい。しかし、プライバシー意識が高まる中、面接調査は郵送調査などの他の調査方法以上に実施が困難になっている。2025年調査では、この対策の一つとして、希望者に対しZoomを用いたオンライン面接を実施している。現在のところ希望する対象者は必ずしも多くないが、SSM調査の持続可能性を考える上では、対象者にとって協力しやすい調査方式の検討は必至である。オンライン面接調査は、今後につながる重要な試みといえよう。
調査は本年度末にかけて行われ、調査データはクリーニングなどの作業を終えた後、速やかにデータアーカイブを通じて公開する予定だ。多くの方にデータをご利用いただくことで、調査を社会に還元していければと思う。
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