平成27年度社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第5回社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の今年度の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。授賞式は、平成27年11月23日(月・祝)、“嘉ノ雅”茗渓館において執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

保田時男 氏 (関西大学社会学部 准教授)
  • 主な調査研究テーマ
  • 成人親子の援助関係、回顧法によるパネルデータの収集、
    欠損データの分析、データクリーニング

『社会と調査』賞 2名

佐藤 寧 氏 (株式会社日経リサーチ ソリューション本部ソリューション第3部 部長 兼世論調査部 部長)

「内閣府政府広報室世論調査の概要と課題」『社会と調査』第13号、2014年:70-79頁

  • 主な調査研究テーマ
  • マーケティングリサーチ全般、世論調査全般(特にマスコミ世論調査、政府世論調査)世論調査歴史研究
田代志門 氏(国立がん研究センター研究支援センター 生命倫理室 室長)

「研究規制政策のなかの社会調査―「研究者の自治」から「行政指導」へ?―」 『社会と調査』第12号、2014年:5-12頁

  • 主な調査研究テーマ
  • 人を対象とする研究の倫理と規制、死と死にゆくことの社会学

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」もので、第5回優秀研究活動賞の受賞者として保田時男(ヤスダ・トキオ)氏を決定しました。

保田氏は、現代日本の家族関係に関する計量的な研究に従事し、全国規模の社会調査データを用いて成人未婚子と親のサポート関係など家族社会学の分野でオリジナルな業績をあげてきました。専門の家族社会学だけでなく、社会調査に関連したデータ収集やデータクリーニングなどに関する論考を刊行しており、回収率低下問題、欠損値問題、データのユーザビリティなど、調査データの創出にかかわる地味だが重要な問題を、実体験をベースに説得的に取り上げ、課題と解決策を論じています。

保田氏は、日本版総合社会調査(JGSS)、2005年社会階層と社会移動調査(SSM)、全国家族調査(NFRJ-08)など日本を代表する社会調査データの創出に深くコミットし、特にデータクリーニング、職歴データの構築、データ欠損の問題などに関して大きく貢献しました。社会調査データの分析手法の普及に関しても、JGSSデータとオンライン集計を活用した共著『調査データ分析の基礎』を刊行し、社会調査協会のアドバンスド社会調査セミナー、S科目セミナー講習会の講師やICPSR国内利用協議会統計セミナーの講師を務めるなど、教育活動を展開してきました。

以上のように、社会調査データの創出とその過程にかかわる課題を研究論文として分析するだけでなく、調査データの分析手法に関する教育活動と後進の育成に関しても顕著なものがみられ、受賞に相応しいと選考委員会は判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考を行い、第5回『社会と調査』賞の受賞者として、佐藤寧(サトウ・ヤスシ)氏と田代志門(タシロ・シモン)氏を決定しました。

田代氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第12号の特集「社会調査とデータの利用をめぐる研究倫理の動向」に掲載された論文「研究規制政策のなかの社会調査―「研究者自治」から「行政指導」へ?」です。この論文は、質問紙調査、インタビュー調査を含む社会調査を、行政機関が策定する研究倫理の指針の対象として含めるべきかについての行政機関での議論を紹介するとともに、日本では非医学系の研究倫理問題をめぐっては、学会や研究機関の自治に委ねられてきたことを明らかにしています。さらに、海外での動向を確認し、最近では人文・社会科学の研究を倫理規制の対象から外す方向での政策議論が進んでいることを紹介しています。社会調査を用いた研究の規制と倫理というタイムリーな話題を取り上げ、この問題が今後より体系的に取り組まれるための具体的な指針を示していることが高く評価されました。

佐藤氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第13号に掲載された「内閣府政府広報室世論調査の概要と課題」です。内閣府大臣官房政府広報室の世論調査専門職として勤務した経験に基づき、佐藤氏は内閣府が実施している様々な世論調査についての歴史的背景、概要だけでなく、現在実施されている調査の具体的な実施手順・運営内容について丁寧に紹介しています。さらに、今後検討すべき課題として、調査設問の設計、競争入札の功罪、回収率低下への対応、調査結果の補正、個票データの公開、の5つについて詳しく議論しています。内閣府の世論調査の現状を紹介するだけでなく、今後の進むべき課題を明らかにしていることが高く評価されました。

(表彰選考委員長 石田 浩)