平成28年度 社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第6回社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の今年度の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。授賞式は、平成28年11月20日(日)、“嘉ノ雅”茗渓館において執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

筒井淳也 氏(立命館大学産業社会学部 教授)
  • 主な調査研究テーマ
  • 女性労働の国際比較、家族形成、配偶者選択、計量社会学の方法論

『社会と調査』賞 2名

藤原 翔 氏(東京大学社会科学研究所 准教授)

「教育意識の個人間の差異と個人内の変化―「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」
(JLPS)データを用いた分析―」『社会と調査』第15号,2015年:40-47頁.

  • 主な調査研究テーマ
  • 社会移動と学歴、職業的地位尺度、パネルデータ分析、計量社会学
片野洋平 氏(鳥取大学農学部 助教)

「研究者と自治体の共同調査の実践と工夫―鳥取県日南町と南部町の事例から―」
『社会と調査』第15号,2015年:86-91頁.

  • 主な調査研究テーマ
  • 自治体による環境政策・地域政策、食・農・環境の法社会学、
    比較社会学

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」もので、第6回優秀研究活動賞の受賞者として、筒井淳也(ツツイ・ジュンヤ)氏を決定しました。

筒井氏は、仕事と家族、ジェンダー、親密性などに関する計量的な研究に精力的に従事し、様々なタイプの社会調査データや内外の統計資料などを駆使して、継続的に多くの業績をあげてきました。また、マルチレベル分析などの統計的な手法に関して、その内容と特質をわかりやすく解説した論文や独自の分析例などを示した論文を多数公表しており、二次データを含めた社会調査データの活用や分析手法に関する普及や啓発について、多大な貢献をしてきました。

筒井氏の場合、自ら社会調査データを創出するという機会をもつことは少なかったようですが、二次データの活用や分析手法の紹介、具体的な分析例の提示などについての貢献が大きく、計量社会学の入門的なテキストを編集するなど、その社会調査データの分析方法に関する普及や啓発の側面における貢献は、それを補って余りあるものです。また、社会調査データから読み取れることの政策的な示唆に関する一般社会への発信や国際ジャーナルへの投稿などにも積極的に取り組んでいます。

以上のように、様々な社会調査データを活用しながら、その分析結果に関する社会的な発信や分析手法に関する普及・啓発に継続的に努めてきた功績は大であり、受賞に相応しいと選考委員会は判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われ、第6回『社会と調査』賞の受賞者として、藤原 翔(フジハラ・ショウ)氏と片野洋平(カタノ・ヨウヘイ)氏を決定しました。

藤原氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第15号の特集「パネル調査の発展と課題」に掲載された論文「教育意識の個人間の差異と個人内の変化──『働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査』(JLPS)データを用いた分析」です。この論文は、パネル調査のデータを用いて社会経済的要因と教育意識との関連としての個人間の差異だけでなく、どのような社会経済的特徴の変化によって教育意識における個人内の変化が生じるかを明らかにしようとしたものです。分析はハイブリッドモデルを用いて、パネルデータの分析としては典型的な形式をとっています。そのうえで、高学歴志向については個人の階層的な変化が生じても影響は見られないのにたいして、学歴社会観については非正規や無職との移動によって変化が生ずることを明らかにしています。分析は手堅く、パネルデータを用いた研究としてモデルとなるといってよい点が高く評価されました。

片野氏の受賞対象となったのは、同じく『社会と調査』第15号に掲載された「研究者と自治体の共同調査の実践と工夫──鳥取県日南町と南部町の事例から」です。この論文では、過疎地域における耕作放棄地や空き家問題に対処するために、自治体内に土地・資産を所有する在村および不在村者を対象に調査を行う過程で、当該自治体といかにして信頼関係を築き、研究者と自治体との共同調査を可能にしていったかについての経験が詳細に報告されています。自治体との共同調査によって、通常ではアクセスできない固定資産税の課税台帳にもとづき、土地と資産に関するデリケートな項目を含んだ調査が可能になったことが報告されています。社会調査がその対象者を含めた現実とどう関わるかが問われている昨今、自治体と共同することによって脅かされかねない研究の自立性という問題を孕みつつも、自治体によって独自に行われる調査の問題点を指摘することや、あくまで当事者に寄り添うことを強調する立場とはまた異なった方向を示している点が高く評価されました。

(表彰選考委員長 玉野和志)