ご挨拶

現代社会、とりわけ日本のように人々の行動や意識の自由度が高い社会においては、あらゆる活動の局面において社会のあり方や人々の行動などに関する時宜に適った情報が求められます。たとえば、民主的な政治システムの健全な運営には、人々の意識の動向を把握してそれを政治的に活用するための世論調査が欠かせません。また、GDPをはじめとするさまざまな経済指標、経済統計は、企業活動に関わるデータおよび世帯や個人から得られた家計や生活実態に関するデータによって構成されます。国や自治体による有効な福祉政策や子育て支援計画の策定にあたっては、国勢調査を中心とする人口や家族構成に関するデータのほか、人々の暮らし方や仕事と育児に関する意識についての詳細な調査データを活用する必要があります。あるいは、バランスの取れた企業経営戦略を立てるためには需給の状況を知らなければなりませんが、その際にも市場調査によるデータが必須です。そうした情報やデータを獲得する有効な手段の多くが社会調査の範疇に含まれます。その意味で、社会調査は今や現代の最も重要な社会インフラの一つになっているといえるでしょう。

もちろん、純粋に学術的な分野でも、主に社会科学、人間科学の領域においてさまざまな社会調査が研究を支えています。たとえば、現下の新型コロナウイルス感染症拡大が人々の生活と意識に及ぼす影響の研究であれば、患者や元患者、その家族、医療従事者といった人々への聞き取りを中心とした質的な社会調査が効果を発揮します。また、代表性の高いサンプルの学歴と職業、その親の学歴と職業に関する大規模調査を定期的に行い、データを蓄積してその推移を見ることで、第二次大戦後の日本社会が階層的に開放性を増したのか否かについての考察を行うことができます。適切に実施された社会調査の結果が科学的な議論に欠くことのできない根拠となることは言うまでもありません。

一般社団法人・社会調査協会は、そうした社会調査の質の向上を大きな目標に掲げ、大学等高等教育機関における社会調査教育の水準を維持向上するための支援、研究者と実務者による社会調査を用いた研究の発展、そして社会調査の意義と重要性に関する理解の普及を目的として創設された非営利組織です。

本協会はその目的達成のため、大学等で実施される質の高い社会調査関連科目の認定およびそれらの履修・修得を条件とした社会調査士(学部卒レベル)および専門社会調査士(修士修了レベル)の資格認定を行っています。また、社会調査に関わる技能や知識の普及を目指した講習会、セミナー、研究会、シンポジウム等を定期的に開催し、社会調査に基づく優秀な研究や教育実践の表彰などの事業を行っています。さらに、社会調査に関わる専門家や研究者のためのフォーラムとしての機関誌『社会と調査』も年二回発行しています。

2004年、本協会の前身である「社会調査士資格認定機構」が資格認定事業を開始しました。それから今日に至るまで、社会調査に関わる数多くの専門家、研究機関、学会、企業、団体等の支援と協力をいただき、累計3万名を超える社会調査士と3千名を超える専門社会調査士を認定してまいりました。それによって本協会は社会インフラとしての社会調査の基盤の充実に十分寄与することができたのではないかと考えています。

今日、社会調査の重要性はますます高まっています。その一方で、質の高い調査を実施する上での困難も増しているため、本協会が果たすべき役割もそれにつれて大きくなっていると日々感じています。とくに社会調査の公共的意義についての啓蒙や新しい時代を見据えた調査方法の改善などは、今まさに本協会が力を入れて取り組むべき最重要課題であると認識しています。本協会は今後とも社会調査および社会調査教育のさらなる発展のためのさまざまな活動を展開し、社会の期待に応えていきたいと願っています。

2020年6月

岩永雅也(放送大学 副学長)