平成26年度社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第4回社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の今年度の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。
授賞式は、平成26年11月3日(月・祝)、如水会館において執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

太郎丸  博 氏 (京都大学大学院文学研究科 准教授)
  • 主な調査研究テーマ
  • 社会階層論、社会学方法論

『社会と調査』賞  2名

樋 口 麻 里 氏 (大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程)

「統合失調者の回復過程とその分岐点における居場所―Atlas.tiを利用したグラウンデッド・セオリー・アプローチによる試み―」『社会と調査』11号、2013年:85-100頁

  • 主な調査研究テーマ
  • 精神疾患を抱える人々の社会的排除と、その社会的要因の日仏比較 フランスのアディクション政策を担うアソシアシオンの活動
堤 圭史郎 氏 (福岡県立大学人間社会学部 准教授)

「多重債務経験者等の生活問題に関する調査研究―福岡県立大学人間社会学部公共社会学科の社会調査実習―」『社会と調査』12号、2014年:85-89頁

  • 主な調査研究テーマ
  • 都市社会学、社会問題論(日本におけるホームレスの人々の析出過程、 生活困窮者支援モデル構築に関する研究)

選考委員長報告

社会調査協会賞のうち、優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」もので、第4回優秀研究活動賞の受賞者として、太郎丸 博氏が決定されました。

太郎丸氏の研究の特色は、若年層の非正規雇用など社会的に関心の高いテーマについて課題を設定し、理論的な仮説を提起した上で、社会調査データを用いて明示的に理論と実証を繋げる分析を積み上げることです。太郎丸氏の研究関心は、非正規雇用などの社会階層の研究に留まらず、理論社会学・数理社会学にも及んでおり、研究の射程に広がりが見られます。社会調査データの分析手法の普及に関しても、著書『人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門』を刊行するなど、独自の貢献が見られます。
太郎丸氏は、若年者を対象とした2005年SSM調査の若年層調査、大阪大学人間科学研究科でのインターネットと面接による「フリーター調査」など、質の高い貴重な調査データを学術コミュニティーに提供する活動にかかわってきました。さらに計量分析のテキストの刊行、ICPSR国内利用協議会統計セミナーの講師や大学院での社会調査実習教育を通じて、後進の育成に貢献してきました。
以上のように、理論的関心と調査データによる実証分析を繋げる研究実績に顕著なものがあり、調査データの創出と後進の育成を通して学術コミュニティーへの大きな貢献が認められ、受賞に相応しいと選考委員会は判断いたしました。

『社会と調査』賞については、直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われ、
第4回『社会と調査』賞の受賞者として、樋口麻里 氏と堤 圭史郎 氏が決定されました。

樋口氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第11号に掲載された査読論文「統合失調症者の回復過程とその分岐点における居場所―Atlas.tiを利用したグラウンデッド・セオリー・アプローチによる試み―」です。この論文は、統合失調症者の発病以降からその後の回復過程を、グラウンデッド・セオリー・アプローチの分析手続きに従い、質的データの収集・管理・分析を支援するQDA(Qualitative Data Analysis)ソフトウエアであるAtlas.ti(アトラス ドット ティアイ)を用いて考察したものです。観察からストーリーの構成に至る過程を、グラウンデッド・セオリー・アプローチのひとつの型として丹念に描き出し、当事者性をもたない「健常者」との交流の場の重要性という知見を導き出していることが高く評価されました。

堤氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第12号に掲載された調査実習の事例報告「多重債務経験者等の生活問題に関する調査研究」です。この報告は、多重債務経験者への貸付支援や家計アドバイスを行う生活再生相談室の活動について、社会調査実習を行った記録です。生活再生相談室から貸付を受けた世帯を対象に、生活再生相談室相談員と学生が2人1組で半構造化面接法により、貸付前・貸付時・貸付後・現在の仕事、家族員、社会関係の状況、相談室へのニーズなどに関して聞き取り調査を行いました。対象者が生活困窮に陥った過程、生活再生の軌道にのっていく過程、生活再生・家計アドバイスに関する対象者の評価の3つのテーマに関して分析を行っています。多重債務経験者という通常の社会調査実習では取り上げられない困難な対象にアプローチし、その生活史だけでなく、生活再生相談室への利用者の評価を含めた政策的なインプリケーションにまで射程にいれた実習内容が高く評価されました。

(表彰選考委員長 石田 浩)