平成29年度社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第7回社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の今年度の受賞者は、以下の4名の方に決まりました。授賞式は、平成29年11月18(土)、嘉ノ雅 茗渓館において執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

中澤 渉 氏 (大阪大学大学院人間科学研究科 准教授)
  • 主な調査研究テーマ
  • 教育社会学・社会階層論・計量社会学

『社会と調査』賞 3名

槙 純子 氏 (日経リサーチ・ソリューション本部 世論調査部担当部長)

「シングルフレームによる固定電話・携帯電話併用式RDD調査」 『社会と調査』 第18号, 2017年:62-73頁..

  • 主な調査研究テーマ
  • RDD法を用いたマスコミ世論調査や選挙情勢調査
松本 渉 氏 (関西大学総合情報学部 教授)

「高品質な郵送調査の実践をめざして-高槻市と連携した関西大学総合情報学部の社会調査実習-」 『社会と調査』 第15号, 2015年:107-111頁.(李 容玲 氏と共著)

  • 主な調査研究テーマ
  • 社会貢献意識・活動,パラデータ分析,国際比較
李 容玲 氏 (桃山学院大学 非常勤講師

「「高品質な郵送調査の実践をめざして-高槻市と連携した関西大学総合情報学部の社会調査実習-」 『社会と調査』 第15号, 2015年:107-111頁.(松本 渉 氏と共著)

  • 主な調査研究テーマ
  • 制度が意識に及ぼす影響の量的および質的分析

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」もので、第7回優秀研究活動賞の受賞者として、中澤 渉(ナカザワ・ワタル)氏を決定しました。

中澤氏は、教育社会学の分野を中心に、実証的な計量分析の研究に従事し、東京大学社会科学研究所が実施したパネル調査である「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」など、いくつかの重要な社会調査データの創出に関わるとともに、多くの研究成果を上げてきました。とりわけ「通塾が進路選択に及ぼす因果効果の異質性」という論文では、傾向スコア・マッチングを用いた因果効果分析を適用し、類似の方法を用いた研究では常に参照される業績として、方法論的にも大きな貢献をしています。

また、近年ではサントリー学芸賞を受賞した『なぜ日本の公教育費は少ないのか』を発表するなど、手堅く堅実な計量分析にもとづく研究だけではなく、その成果にもとづく政策的な示唆についても、積極的な情報発信を試みています。

以上のように、いくつか重要な社会調査データの創出に関わり、多くの業績を上げることで、計量分析における方法論的な貢献や、その政策的な活用を含めた分析結果に関する社会的な発信などに、継続的に努めてきた功績は大であり、受賞に相応しいと選考委員会は判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われ、第7回『社会と調査』賞の受賞者として、槙 純子(マキ・ジュンコ)氏と松本 渉(マツモト・ワタル)・李 容玲(リ・ヨウレイ)両氏を決定しました。

槙氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第18号の「調査の現場から」に掲載された論文「シングルフレームによる固定電話・携帯電話用様式RDD調査」です。この論文は、近年の携帯電話の普及にともない、固定電話を用いた電話調査ではたして十分なのかという疑問に応えるべく、調査の現場で試みられた携帯電話を用いた調査に、どのような偏りがあるかを検討したものです。検討の方法はきわめて精密で、結果として見いだされた固定電話調査結果との違いについても、大変興味深いものでした。単なる紹介ではなく、論文といってもよいほどの内容と、実用的な価値の高い試みが高く評価されました。

松本・李両氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第15号に掲載された調査実習の事例報告「高品質な郵送調査の実践を目指して」です。この事例報告では、郵送調査において高い回収率を実現するために、近隣自治体との連携や調査票の色、デザイン、フォント、さらには予告ハガキや返信用の封筒に至るまで多くの工夫を行うことで、実際に60%以上という高い回収率を実現している調査実習の報告です。筆者のひとりである松本氏が期せずして別号の特集でパラデータの活用という形でその意義を強調しているデータ取得プロセスの重要性をまさに実践する社会調査実習の報告であり、社会調査教育としてきわめて優れている点が高く評価されました。