2020年12月7日
2020年春、新型コロナウイルス感染拡大防止を目的に、全国的な臨時休校が実施された。あれから半年ほど経ち、ウイルスの猛威が再燃している年の瀬の今、私たちは「あの時」のことをどれだけ正確に思い出せるだろうか。夏以降、学校や仕事なども再開し、ウィズコロナの新しい生活様式へとシフトしている中で、当事者であった子どもたちやその家族の間でさえ、おそらく「過去のこと」として認識されつつあるように思う。
やがて忘却されてゆく「あの時何が起こったのか」をしっかりと捉えなければならない。そのような課題意識のもと、「中高生の生活と学びWeb調査」は行われた。この調査の対象は、「子どもの生活と学びに関する親子調査」(以下、親子パネル調査)の調査モニタである中高生である。「親子パネル調査」は、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所とが共同で実施する子どもとその保護者約2万組を追跡する縦断調査である。詳細については別著注1に譲るが、その最大のねらいは、子どもの学びと成長のプロセスを明らかにすることである。この「親子パネル調査」をベースに、中高生への追加調査を実施してデータを連携することにより、休校時の実態とその前後の変化がつかめないかと考えた。実査にあたり、時期や方法も念入りに検討した。本体調査に付加的に情報を得るための調査であるから、本体調査の実施時期(8月夏休み頃)にできるだけ近い時期に実査を行い、かつ、中高生本人に負荷なく協力してもらえるようWeb回答方式を採用した。
2020年、子どもたちの夏休みは全国的に短縮された。そのような中、本体調査と追加調査とを立て続けに実施することに躊躇もあった。ところが、いざふたを開けてみると、本体調査は昨年より高い回収率であり、追加調査も十分なサンプルが得られた。帰省や不要不急の外出の自粛が奨励され、ステイホームが進む中で、例年より自宅時間が長かったことも大きな要因の1つだろう。ただ、これは個人的な仮説に過ぎないが、「調査を通して今の状況を伝えたい、知ってほしい」という親子の叫びにも似たような想いが、その背景にあったような気がしてならない。
この調査の大きなねらいはもう1つある。コロナ禍が子どもの学びや成長に与える長期的な影響を捉えることである。筆者が本調査を企画・実行時に想起していたのは、エルダーの古典的な名著「大恐慌の子どもたち」注2であった。新型コロナウイルスによる社会経済的な変動が、今この瞬間だけでなく、今後子どもたちや家族が歩むライフコースにどんな影響を与えるのか。データからは、子どもたちの生活や学びのある側面における格差が、休校を経て例年よりも拡大した印象を受ける。その一方で、忘れてはならない別の視点は、環境変化に対する子どもとその家族の適応的な態度や行動である。子どももその家族も、時代の流れに翻弄されるだけの存在ではない。意思をもったエージェントでもある。これまで経験したことのない変化を前にしながらも、それに適応し、そこから新しい学びや親子関係のあり方を模索し始めているに違いない。いくつかのデータからも、そのようなことが思わされる。今後も引き続き、親子パネル調査による丁寧な追跡と、誠実な仮説・検証を試みたい。
さいごに、調査を振り返ってみて、あらためて思いうことがある。今年のような非常時の状況を確かに捉えるためにも、社会調査は平時もしっかり機能しなければならない。平時にきちんと機能しない社会調査は、非常時を捉えるどころか、そもそも企画・実行することすら難しいであろう。単純だが、今回得られた最大の教訓である。