令和7年度 社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第15回社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の授賞式が、2025年11月22日(土)、連絡責任者会議・会員集会に併せて聖心女子大学ブリット記念ホールで行われました。受賞者は以下の3名の方々です。
優秀研究活動賞 1名
阪口祐介 氏(関西大学総合情報学部 教授)
- 主な調査研究テーマ
雇用不安、リスク意識、社会意識、社会変動
『社会と調査』賞 2名
小川和孝 氏(東北大学大学院文学研究科 准教授)
「マルチレベル回帰モデルと事後層化を用いた非確率抽出データの推定改善-モニター型調査に
おける高校生の教育達成の分析への適用-」『社会と調査』第33号46-57頁、2024年
- 主な調査研究テーマ
教育社会学・社会階層研究・社会調査法
大久保将貴 氏(東洋大学社会学部社会学科 助教)
「潜在的結果モデルに基づいたパネル条件付けバイアスの識別仮定と方法-パネル追加ランダム
サンプリングを用いた自然実験-」『社会と調査』第33号58-70頁、2024年
- 主な調査研究テーマ
社会学方法論、社会調査方法論、社会階層、社会保障・福祉・政策
選考委員長報告
優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」ものです。原則として受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、特定の論文・著書・調査報告に限らずに研究業績の全体を評価すること、の2点を考慮しながら慎重に選考を行った結果、第15回優秀研究活動賞の受賞者として、阪口 祐介(サカグチ・ユウスケ)氏を推薦することに決定しました。
阪口氏の審査対象著書については、単著『リスク意識の計量社会学――犯罪・失業・原発・感染症への恐れを生み出すもの』(勁草書房,2024年)を主たる評価対象とし、あわせて次の3点の論文を参考業績として審査を進めました。すなわち、「なぜ高卒女性で初職非正規雇用リスクは高まったのか」(中村高康・三輪哲・石田浩編『少子高齢社会の階層構造1 人生初期の階層構造』東京大学出版会,2021年)、「現代日本における性役割意識の長期的変動――社会的地位の構成変化に注目した媒介分析」(『社会学評論』第74巻第1号,2023年)、および「失業リスクの趨勢分析――非正規雇用拡大の影響と規定構造の変化に注目して」(『ソシオロジ』第55巻第3号,2011年)です。
対象著書において特に高く評価された点は、ベックのリスク社会論を理論的背景としつつ、社会のあらゆる側面におけるリスク意識に焦点を据え、計量的データを用いた精緻な社会学的分析を行っている点にあります。具体的には、全国規模の調査データに基づき、失業、非正規雇用、犯罪、環境などの多様なリスクの種類や、主観的・客観的認識の差異、さらに国や時代による変化を明らかにしています。これにより、リスク意識が必ずしも普遍的ではなく、社会的・文化的文脈に規定されるものであることを実証的に示しています。また、リスクに対する社会階層や時代背景の影響、性別役割意識の形成メカニズムの変化、メディアの影響などについても多角的に分析を行っている点が高く評価されました。さらに、これまでに執筆された共著や査読論文の蓄積が豊富であることに加え、2015年社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)をはじめとする多様な社会調査活動に積極的に従事してきた点も高く評価されました。
以上のように、リスク社会論という明確な理論枠組から大規模な社会調査データの特性を活かした精緻な分析を展開しており、優秀研究活動賞に相応しいと選考委員会が判断しました。
『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われました。原則として、受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、『社会と調査』に掲載された投稿論文ならびに特集論文、調査事例報告を含む論文を対象とすること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第15回『社会と調査』賞の受賞者として、小川和孝(オガワ・カツノリ)氏と大久保将貴(オオクボ・ショウキ)氏の2名を推薦することに決定しました。
受賞対象の一つとなったのは、小川氏による査読論文「マルチレベル回帰モデルと事後層化を用いた非確率抽出データの推定改善―モニター型調査における高校生の教育達成の分析への適用―」(『社会と調査』第33号掲載)です。
本論文は、高校生の教育達成に関するデータを対象に、マルチレベル回帰モデルと事後層化(post-stratification)を組み合わせた分析手法を用い、モニター型調査データのバイアス補正の有効性を検討したものです。近年、調査会社の登録モニターを対象とした調査が増加する中で、このようなデータの補正・改善方法についての応用可能性を具体的に示した本研究は、調査方法論分野において実践的かつ有益な示唆を与えるものと高く評価されました。
もう一つの受賞対象となったのは、大久保氏による査読論文「潜在的結果モデルに基づいたパネル条件付けバイアスの識別仮定と方法―パネル追加ランダムサンプリングを用いた自然実験―」(『社会と調査』第33号掲載)です。
本論文は、パネル調査において、継続的な回答経験がその後の回答行動に影響を及ぼす「パネル条件付けバイアス」に焦点を当てたものです。具体的には、潜在的結果モデル(potential outcomes framework)を理論的基盤とし、パネル追加ランダムサンプリングという独自の調査設計を活用することで、このバイアスを厳密に識別・推定する方法を提示しています。従来、パネル調査の回答経験がもたらす影響は指摘されてきたものの、その効果を実証的に検証し、識別する手法は十分に確立されていなかったのに対し、本研究は、データ分析を通じてパネル条件付けバイアスの識別仮定を明らかにするという方法論の緻密さが高く評価されました。洗練された手法を通じて、調査方法論の発展に大きく寄与した点が特に高く評価されています。
以上の理由から、この2つの論文は『社会と調査』賞に相応しいと判断しました。
