令和5年度 社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第13回社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の授賞式が、2023年11月25日(土)、連絡責任者会議・会員集会に併せて社会調査協会事務局をベースに、Zoomによるオンライン形式で行われました。受賞者は以下の3名の方々です。

優秀研究活動賞 1名

土屋敦 氏(関西大学社会学部 教授)
  • 主な調査研究テーマ
    子ども社会学、家族社会学、歴史社会学、ライフヒストリー

『社会と調査』賞 2名

伊藤理史氏(京都産業大学現代社会学部 准教授)

「2015年住民投票における投票行動の規定要因分析」『社会と調査』第29号、2022年

  • 主な調査研究テーマ
    福祉社会学,政治社会学,計量社会学,社会調査法
渡辺健太郎氏(立教大学社会情報教育研究センター 助教)

「督促の文面はSMS調査への協力行動に影響するか」『社会と調査』第30号、2023年

  • 主な調査研究テーマ
    社会調査法、教育社会学、科学社会学

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」ものです。原則として受賞年度の4月1日時点で45歳以下であり、特定の論文・著書・調査報告に限定するのではなく研究業績の全体を評価することが重視されます。慎重に選考を行った結果、第13回優秀研究活動賞の受賞者として、土屋敦氏を決定しました。

土屋氏の審査の対象著書は、単著『「戦争孤児」を生きる : ライフストーリー/沈黙/語りの歴史社会学』(2021)と論文「「保護されるべき子ども」と親権制限問題の一系譜―児童養護運動としての「子どもの人権を守るために集会」(1968‐77 年)―」(2017)『子ども社会研究 23 』の2点です。

対象著書において特に評価された点は以下の通りです。第1に、個人の「ライフストーリー」という素材を、「スティグマ論」「概念分析の社会学」「子ども社会学」「戦争社会学」といった既存の理論的視座に照らして研究の位置づけを明確にしている点が挙げられました。第2に、実際に行った戦災孤児10名を対象としたインタビュー調査については、自らを「戦争孤児」と定義し、その経験に関する長い沈黙と語りを可能とする社会的条件が丁寧に分析され、「子ども」をめぐる歴史社会学的な分析という一貫したテーマが精緻な調査手法により深く追求されている点も評価されました。加えて、これまで執筆された数多くの査読論文と英語論文等からも、インタビューを素材とする社会調査活動に積極的に取り組まれてきたことがわかります。

以上のように、歴史社会学分野での優れた研究業績にとどまらず、社会調査全体に対して大きな貢献をされており、優秀研究活動賞に相応しいと選考委員会が判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われました。原則として、受賞年度の4月1日時点で45 歳以下であること、『社会と調査』に掲載された投稿論文ならびに特集論文、調査事例報告を含む論文を対象とすること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第13回『社会と調査』賞の受賞者として、伊藤理史氏と渡辺健太郎氏の2名を推薦することに決定しました。

一つ目の受賞対象論文となったのは、伊藤氏による査読論文「2015年住民投票における投票行動の規定要因分析-橋下市長支持態度との関係に注目して」(『社会と調査』第29号掲載)です。本論文は、維新の会の高い支持率にも関わらず、大阪都構想は否決された事例から、首長への支持と政策への支持が異なる理由について独自の調査に基づいて分析したものです。具体的には、大阪都構想をめぐる住民投票での回答者の投票行動と投票理由について、それぞれ多項ロジスティック回帰および多重対応分析を行い、維新の会への支持・不支持と都構想への賛否を掛け合わせた投票行動類型により、維新支持者による都構想反対理由を明らかにした点が高く評価されました。

二つ目の受賞対象論文となったのは、渡辺氏による査読論文「督促の文面はSMS調査への協力行動に影響するか」(『社会と調査』第30号掲載)です。本論文は、SMS(Short Message Service)を用いた調査において、調査対象者に対する督促の文面を変えることによる回答協力率の変化を検討したものです。近年、ライフスタイルの多様化、個人情報に対する保護意識の高揚などの影響から、調査への協力を得ることが困難である調査環境において、調査への協力を促すファクターを究明する本論文は、調査方法論分野において有益な示唆を与えるものと評価されました。

以上の理由から、本論文は『社会と調査』賞に相応しいと判断しました。