令和2年度 社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第10回 社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。新型コロナウイルス感染拡大のため、今年の授賞式は令和2年11月21(土)に社会調査協会事務局において、Zoomによるオンライン形式で執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

田辺 俊介 氏(早稲田大学文学学術院 教授)
  • 主な調査研究テーマ
    社会意識(特にナショナリズム)、政治社会学、社会調査方法論

『社会と調査』賞 2名

作田 誠一郎 氏(佛教大学社会学部現代社会学科 准教授)

「少年非行調査の課題と今後の展望」『社会と調査』第24号, 2020年

  • 主な調査研究テーマ
    少年非行史の研究、学校問題に対する社会学的研究、青少年の規範意識に関する研究
土屋 敦 氏(関西大学社会学部 准教授)

「児童養護施設の就園児童における生活と退園後の生活支援に関する実態調査」
『社会と調査』第24号, 2020年

  • 主な調査研究テーマ
    児童養護施設の歴史社会学、施設生活経験者のライフヒストリー

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」ものです。原則として受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、特定の論文・著書・調査報告に限らずに研究業績の全体を評価すること、の2点を考慮しながら慎重に選考を行った結果、第10回優秀研究活動賞の受賞者として、田辺俊介(タナベ・シュンスケ)氏を決定しました。

審査の対象著書である田辺俊介編著『日本人は右傾化したのか』では、2009、2013、2017年の3時点での全国調査データを用いて、特にナショナリズムに焦点をあてその変化や複雑な関連構造の分析を試みています。分析を通じ、「右傾化」と単純には言えず、「右傾化」という言葉を用いることが階層的格差を覆い隠す危険性を孕でいるという重要な指摘を行っています。田辺氏は、対象著書以外にも、単著『ナショナル・アイデンティティの国際比較』(2010)のほか、単独の編者として共著(2011,2014)を刊行するなど意欲的な研究活動を継続しており、日本の社会意識研究を牽引する研究者の1人となっています。

また、こうした研究成果に加え、①国際的発信力があること、②データの作成と利用の両面で社会的貢献が大きいこと、③多数の調査研究の企画・実施に関わり調査経験が豊富なこと、④プロジェクトを企画し、リーダーとしてまとめあげる力量を備えていること、などが高く評価されました。

以上のように個人的な研究活動だけではなく、社会調査活動全体に対しての貢献が評価され、優秀研究活動賞に相応しいと選考委員会は判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われました。原則として、受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、『社会と調査』に掲載された投稿論文ならびに特集論文、調査事例報告を含む論文を対象とすること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第10回『社会と調査』賞の受賞者として、作田誠一郎(サクタ・セイイチロウ)氏と土屋敦(ツチヤ・アツシ)氏を決定しました。

作田氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第24号の特集論文の1つとして掲載された「少年非行調査の課題と今後の展望」です。この論文では、作田氏が2018年3月から約3年計画で少年院側と共同で取り組んでいる調査研究が紹介されています。こうした調査は、2015年の少年院法の改正によって初めて可能になったもので、現在作田氏は11カ所の少年院において非行少年に対するインタビュー調査とアンケート調査を実施しています。インタビュー調査に際しては少年本人のみならず保護者の同意が必要とされたり、1対1の面談を実現するために非常時の呼び出しベルを用意して調査に臨んだりする様子が語られており、調査が大きな困難の中で進められていることがわかります。調査はまだ途中ですが、少しずつ成果も出されてきています。このように困難な調査分野を開拓し研究成果を生み出している姿勢が高く評価されました。

土屋氏の受賞対象となったのは、同じく『社会と調査』第24号に掲載された調査レポート「児童養護施設の就園児童における生活と退園後の生活支援に関する実態調査―徳島大学2017年度「地域調査演習A・B」社会調査実習の報告」です。調査実習の主題は、実親家庭で生活が出来ない子どもの生活の場のあり様を把握することです。そのために、抽出した全国400の児童養護施設に対する質問紙調査(量的調査)と徳島県の児童養護施設など関連施設4カ所と里親4人へのヒアリング調査(質的調査)が実施されました。前期(2コマ)、後期(2コマ)という実習時間のなかで、前期は量的調査中心に、後期は質的調査中心に、密度の濃い実習が展開され、報告書が作成されています。2年次にこのように充実した量的・質的の両方の調査実習を経験できることの教育効果は非常に大きいと考えられます。以上の点が高く評価され、『社会と調査』賞に相応しいと判断しました。