平成30年度社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第8回 社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の今年度の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。授賞式は、平成30年11月25(日)、“嘉ノ雅”茗渓館において執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

堀 有喜衣 氏 (労働政策研究・研修機構 主任研究員)
  • 主な調査研究テーマ
  • 学校から職業への移行・教育社会学・若年者雇用政策

『社会と調査』賞 2名

高田 佳輔 氏(中京大学現代社会学部 非常勤講師)

「オンラインゲームの仮想世界が現実世界の対人関係の質および量に及ぼす影響」
『社会と調査』17号,2016年.

  • 主な調査研究テーマ
  • オンラインゲーム研究(社会学・社会心理学)
江口 達也 氏 (朝日新聞社 世論調査部)

「朝日新聞世論調査の70年―調査手法とその変遷―」 『社会と調査』20号,2018年.

  • 主な調査研究テーマ
  • 世論調査、選挙予測、調査手法開発

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」ものです。原則として受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、特定の論文・著書・調査報告に限らずに研究業績の全体を評価すること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第8回優秀研究活動賞の受賞者として、堀 有喜衣(ホリ・ユキエ)氏を決定しました。

堀氏は、労働政策・研修機構の研究員として、高校から職業への移行に関する量的・質的な調査研究に、長年にわたって継続的に従事し、一連の貴重な社会調査データの創出に貢献してきました。それらの集大成ともいえる博士論文にもとづいて出版した『高校就職指導の社会学』では、教育社会学においてこれまで通説と考えられてきた、80年代までの高校と企業との継続的な関係にもとづき高校が生徒を選抜し、企業がそれを受け入れるという「学校に委ねられた職業選抜」のあり方が、実はその時代においても決して量的に多いものではなかったことを、当時行われた量的調査の再分析とその後に行われた継続的な調査結果の量的ならびに質的なデータを巧みに組み合わせた綿密な分析によって明らかにし、90年代以降の現実の変化が雄弁に示したように、労働市場のあり方がより重要な条件として作用していることを明らかにしています。

以上のように、一貫して貴重な社会調査データの創出に関わるだけでなく、その過程で量的・質的に多様な調査研究をそのつど的確に設計・実施し、多くの業績を上げると同時に、それまでの通説を体系的に再検討することを通じて、政策的な活用という点でも重要な示唆を与えるなど、その功績は大であり、受賞に相応しいと選考委員会は判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われました。原則として、受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、『社会と調査』に掲載された投稿論文ならびに特集論文、調査事例報告を含む論文を対象とすること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第8回『社会と調査』賞の受賞者として、高田 佳輔(タカダ・ケイスケ)氏と江口 達也(エグチ・タツヤ)氏を決定しました。

高田氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第17号に査読論文として掲載された「オンラインゲームの仮想世界が現実世界の対人関係の質および量に及ぼす影響」です。この論文は、オンラインゲームの仮想世界が現実の対人関係にどのような影響を及ぼすかという大変興味深い課題に対して、インターネット調査から特定のゲームのプレイ経験の有無によって構成されたサンプルを対象に行った、きわめて周到で緻密な計量分析の結果から考察したものです。重回帰分析の結果、オンラインゲームが対人関係の希薄さと関連すること、しかしその影響は仮想世界をもつゲームともたないゲームでは異なることが明らかにされました。分析に当たってあらかじめ対人関係特性の個人差に留意するなど、尺度構成や分析手順も的確で、計量分析の論文としての全体的な完成度と方法的な限界や課題についても自覚的である点が、高く評価されました。

江口氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第20号に掲載された特集論文「朝日新聞世論調査の70年──調査手法とその変遷」です。この論文は戦後、朝日新聞社に世論調査を担当する部署として世論調査室が創設されて以降の、世論調査の手法をめぐる暗中模索と変遷の歴史が紹介されたものです。すでによく知られた内容も含まれていますが、GHQの民間情報教育局世論調査課長だったパッシンが、直接朝日新聞を訪れて行った厳しい批判を契機に、無作為抽出の方法の学習が始まったことや、電話調査において電話番号を無作為に発生させるRDDの手法が、名簿方式よりも選挙予測が的確であることが証明されていった経緯など、社会調査の歴史としても大変興味深い事実を掘り起こしている点が高く評価されました。