令和3年度 社会調査協会賞 授賞式が執り行われました
第11回 社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。新型コロナウイルス感染拡大のため、昨年同様、今年の授賞式も令和3年11月20日(土)に社会調査協会事務局においてオンライン形式で執り行われました。
優秀研究活動賞 2名
永吉希久子 氏(東京大学社会科学研究所 准教授)
- 主な調査研究テーマ
政治意識、移民の社会階層、社会的排除
藤原 翔 氏(東京大学社会科学研究所 准教授)
- 主な調査研究テーマ
社会移動、教育機会の不平等、計量社会学
『社会と調査』賞 1名
須藤康介 氏(明星大学教育学部 准教授)
「外国にルーツを持つ生徒の学力の実態分析-全国レベルの量的把握の試み」『社会と調査』第25号, 2020年
- 主な調査研究テーマ
計量教育社会学、計量学校社会学
選考委員長報告
優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」ものです。原則として受賞年度の4月1日時点で45歳以下であり、特定の論文・著書・調査報告に限定するのではなく研究業績の全体を評価することが重視されます。慎重に選考を行った結果、第11回優秀研究活動賞の受賞者として、永吉希久子氏と藤原翔氏を決定しました。社会調査協会細則第2条第2項に、「優秀研究活動賞は原則として1名とする」とありますが、今回は評価の基準に照らして上記2名の受賞が妥当と判断しました。
永吉氏の審査の対象著書は、単著『移民と日本社会 データで読み解く実態と将来像』(2020)と編著『日本の移民統合』(2021)です。『移民と日本社会』は、移民の受け入れが日本社会にもたらしてきた影響について、多様な統計データを用いて明らかにした研究成果です。また『日本の移民統合』では、プロジェクト・リーダーとして実施した2018年の「くらしと仕事に関する外国籍市民調査」のデータ分析をもとに、日本における移民統合の状況とその規定要因を、社会経済的統合、社会的統合、心理的統合の3つの側面から検証しています。いずれも統計データを用いて移民と日本社会の関係の全体像を明らかにした社会学分野における貴重な試みとして高く評価されました。さらに、『日本の移民統合』では、調査対象者を住民基本台帳から多段抽出法により抽出しており、その具体的な抽出過程と当面の課題を「補論」として提示した点は、この分野の社会調査の発展に資するものと言えます。
また、永吉氏は、国際査読誌への掲載論文や海外の研究者との共著も多く、国際的な学術活動に最も精力的に取り組んでいる日本人研究者のひとりです。加えて、「2015年社会階層と社会移動(SSM)調査」の研究会メンバーであり、「階層と社会意識研究(SSP)プロジェクト」が実施する一連の全国調査には2019 年以降は幹事会メンバーとして参加するなど、調査経験も豊富で、プロジェクトを企画、運営する力量も優れています。以上のように、移民と社会意識に関する精緻な実証分析にとどまらず、社会調査全体に対して大きな貢献をしてきており、優秀研究活動賞に相応しいと選考委員会が判断しました。
藤原氏の審査の対象業績は、編著『格差社会の中の高校生』(2015)と“Socio-Economic Standing and Social Status in Contemporary Japan: Scale Constructions and their Applications.” European Sociological Review , 2020, Vol.36, No.4.です。『格差社会の中の高校生』では、2002年と2012年に行われた「高校生と母親調査」の親子ペアデータを用いて、高校の選抜制や高校生の進路希望の変化を丹念に分析し、この10年間に社会経済的格差は縮小していないという分析結果を導き、是正のための政策の必要性を指摘しています。また、European Sociological Review に掲載された論文では、2007年と2012年の就業構造基本調査を用いて、独自の視点から日本の職業的地位尺度(JSEIとJSSI)の開発に積極的に取り組み、それを用いた分析から社会階層に関するヨーロッパの研究成果をアジア社会にも適用できることを示しました。このように藤原氏は、国際的な場面で活躍できる数少ない日本人社会学者のひとりです。
さらに、藤原氏は、「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」に継続的に関わり、「2015年社会階層と社会移動(SSM)調査」にも参加しています。最近では、「中学生親子パネル調査」を用いた研究プロジェクトを率いるとともに、分担研究者として「学校卒業後の若年層の就業・家族形成に関する追跡調査」にも関わっており、社会調査の蓄積は非常に豊かです。加えて、ウェブ調査・テキスト分析を活用した因果推論手法の検討などにも取り組んでいます。以上のように、優れた研究スタイルに貫かれた研究業績だけでなく、地位尺度の開発と新たなパネル調査の創出による学術コミュニティーへの貢献により、優秀研究活動賞に相応しいと選考委員会が判断しました。
『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われました。原則として、受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、『社会と調査』に掲載された投稿論文ならびに特集論文、調査事例報告を含む論文を対象とすること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第11回『社会と調査』賞の受賞者として、須藤康介氏を推薦することに決定しました。今回はコロナの影響で調査レポートの報告の件数が少なくなったこともあり、受賞選定の基準に達している論文は上記1点にとどまりました。
須藤氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第25号に査読論文として掲載された「外国にルーツを持つ生徒の学力の実態分析」です。国際学力調査(TIMSS 2003, 2007, 2011,2015年調査)の統合データを用いて、外国ルーツの生徒の学力の実態を明らかにすることを試みています。その際、外国ルーツであることが学力に与える影響を分析するだけでなく、出身階層とエスニシティの交互作用に注目した点に、本研究のオリジナリティがあります。
中学2年生のデータ分析から、①学歴への影響の大きさは、親学歴>外国ルーツ>性別の順であること、②外国ルーツの生徒は親学歴(出身階層)と学力の点で日本ルーツの生徒より分散が大きいこと、③ルーツを問わず父親が中卒以下である場合、学力に与える負の効果が極めて大きいことなど、貴重な分析結果を提示しています。このように本論文は、TIMSSの調査データを丹念に分析することで、これまで十分に把握されてこなかった外国ルーツの生徒の学力の全体像を明らかにした点が高く評価され、『社会と調査』賞に相応しいと判断しました。