令和元年度 社会調査協会賞 授賞式が執り行われました

第9回 社会調査協会賞(優秀研究活動賞と『社会と調査』賞)の今年度の受賞者は、以下の3名の方に決まりました。授賞式は、令和元年11月17(日)、“嘉ノ雅”茗渓館において執り行われました。

優秀研究活動賞 1名

金菱 清 氏 (東北学院大学教養学部 教授)
  • 主な調査研究テーマ
    災害の死者との応答・あわいの世界

『社会と調査』賞 2名

橋爪 裕人 氏(公益財団法人たばこ総合研究センター 研究員)

「消費・文化としての嗜好品摂取」 『社会と調査』第22号, 2019年

  • 主な調査研究テーマ
    社会階層・社会意識・嗜好品
齋藤 曉子 氏 (島根県立大学総合政策学部 准教授)

「社会調査実習におけるアクションリサーチの成果と課題」 『社会と調査』第22号,2019年

  • 主な調査研究テーマ
    高齢者の在宅介護、中山間地域の福祉政策

選考委員長報告

優秀研究活動賞は、「社会調査活動を継続的に行い、それに基づく優れた研究業績をあげている者を表彰する」ものです。原則として受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、特定の論文・著書・調査報告に限らずに研究業績の全体を評価すること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第9回優秀研究活動賞の受賞者として、金菱 清(カネビシ・キヨシ)氏を決定しました。

金菱氏は、東日本大震災において津波や原発の被害を受けた当事者の手記を集めた『3.11慟哭の記録』以来,被災者や被災地の調査研究に精力的に従事し、当事者の主観的な世界を描いた独特の質的調査データの創出に貢献してきました。近年では、「亡き人への手紙プロジェクト」という形で、生者だけではなく、死者やペットを含めた社会的なつながりの中で、人々がどう生きているかを示す質的データの蓄積に取り組んでいます。それらのデータの創出にもとづき,現場や当事者の視点から既存の学問観や「客観的な科学的視点にもとづく」とされる防災政策に疑問を提示し、ひいては人間観や死生観をも問いなおす試みに着手しています。

以上のように、広く社会に震災被害の内実やその意味を伝え,既存の災害対策への疑問を惹起させるような,個性的かつ衝撃的な質的社会調査データの創出に努めてきたことは,量的調査データに比べてその収集の仕方や活用に関する検討が遅れている質的データの意義,評価,限界を,方法的に見極める研究を将来的に促していく意味でも,その功績は大であり、受賞に相応しいと選考委員会は判断しました。

『社会と調査』賞については、選考委員会が開催された直前2年間に刊行された『社会と調査』に掲載された社会調査協会会員および専門社会調査士による論文を対象として選考が行われました。原則として、受賞年度の4月1日時点で45歳以下であること、『社会と調査』に掲載された投稿論文ならびに特集論文、調査事例報告を含む論文を対象とすること、の2点を考慮しながら、慎重に選考を行った結果、第9回『社会と調査』賞の受賞者として、橋爪 裕人(ハシズメ・ユウト)氏と齋藤 曉子(サイトウ・アキコ)氏を決定しました。

橋爪氏の受賞対象となったのは、『社会と調査』第22号に査読論文として掲載された「消費・文化としての嗜好品摂取」です。この論文は、ブルデューの文化資本に関する議論にもとづき、酒、たばこ、コーヒーなどの嗜好品摂取のあり方が、社会階層とどのように結びついているかを、首都圏を対象にエリアサンプリング法で行われた調査データを使用して、明らかにしようとした論文です。結果として教育年数がたばことコーヒーの摂取量にたいしては負の効果をもち、飲酒については階層が高いほど、むしろ摂取量は増えるが、過度の摂取は抑えられるという知見が明らかにされています。分析に当たってはデータの性質や測定のあり方に応じて適切な分析方法が選択されており、計量分析の論文としての完成度と新しい問題領域に挑戦している点が、高く評価されました。

齋藤氏の受賞対象となったのは、同じく『社会と調査』第22号に掲載された査読付きの調査レポート「社会調査実習におけるアクションリサーチの成果と課題──島根県立大学の子育て支援調査から」です。この調査レポートは、市の子育て支援センターのプログラム改善のために、実践者であるセンター職員と、利用者である子育て世帯とも協力しながら、社会調査実習として取り組まれたアクションリサーチの成果と課題を明らかにしようとしたものです。優れた調査実習の報告であると同時に、実践者や利用者と協同してサービス改善のための調査研究に従事し、その成果を実際に政策に還元するという意味でのアクションリサーチを実施しただけではなく、さらにその効果測定へと進むことを課題として提示した点が、高く評価されました。