活躍する社会調査士
現役社会人として活躍する先輩からのメッセージです

五十嵐友美(社会調査士)
2013年3月 東北大学教育学部教育科学学科卒業
新宿区福祉部高齢者支援課(高齢者福祉課)勤務

※所属は『社会と調査』掲載時のものです。

行政職に求められる視点

大学卒業後,新宿区役所に入区し,配属された先は福祉部高齢者福祉課であった。高齢者分野の相談員として,窓口や電話での相談対応,高齢者宅を直接訪問し,実態 把握や生活支援をするケースワーク業務が主な仕事である。 ケースワーク業務では,大学で学んだ定量的調査の知識を活かす場はあまり見つけられずにいるが,中には,社会調査で学んだ知識が活きる場もある。

入区以来,社会調査に関する仕事をしているといちばん実感したのは,国勢調査指導員の業務である。平成27年度は,5年に一度の国勢調査の実施年であり,調査票回収後,調査票の欠損処理作業や結果入力に携わった。もっとも代表的な行政調査に携 わり,この調査のためにどれほどの人が動いているのか,どれほどの時間がかかる作業であるか等を知る貴重な経験になった。

また,担当事業で,目的を持って事業を執行し,反省点を洗い出し,次年度は前年度の課題を克服できるようくふうして事業を執行するという一連の仕事は,大学時代に励んだ研究を思い出させた。このような思考方法を大学時代に経験できたことは,今の自分の糧となっている。

就職後初めて出会った「福祉」は,私の思考に化学変化を生じさせた。これまで,定性的調査等の経験もなく,調査データの分析をとおして,「全体としては,こういった傾向である」という把握をして きた私にとって,ケースワーク業務での個別ケースの把握は,新鮮な発見ばかりだった。定量的調査だけでは分からない,現場の生の声や生活を目の当たりにし,たじろぐこともある。もちろん,全体を把握して,最大公約数の幸福のためになんらかの施策を施すことは重要な行政の役割である。

区役所での仕事において,大学時代に学んだ実証的な思考方法や数字による全体の把握が必要とされる業務は多々あり,大学で学んだ社会調査は貴重な学びであったと実感している。そして,同時に,「福祉」との出会いによって,定量的調査の結果だけでは見えてこない人の思いもあることを痛感した。一つの決定が,複数の家庭や生活に影響を及ぼす公務員の仕事において,この二つの視点双方ともに不可欠であり,「巨視的な展望の欠如」も「短絡的な切捨」もないよう均衡を図ることが必要だと思う。 (※『社会と調査』17号(2016年9月)より転載)

  • 2018年4月6日UP