活躍する社会調査士
現役社会人として活躍する先輩からのメッセージです

高島美保(専門社会調査士)
1989年4月 ,上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業,学士(文学)
株式会社日本リサーチセンター勤務

※所属は『社会と調査』掲載時のものです。

一人ひとりの声を「世論」に

私が初めて調査の世界にふれたのは,男女雇用均等法が施行されてまもない大学生のころに現在の会社で経験したアルバイトだった。そのとき,いまはOGとなられた大先輩に言われたことを,いまでも覚えている。「日本ではまだまだ男性が中心だけれど,海外の調査機関ではとても多くの女性が活躍しているのよ」と。

それでも調査の世界で働き始めるまで,私はすこし回り道をした。大学での専攻は,外国語と,南米ブラジルの植民地時代をケーススタディにした文化人類学。最初の仕事もメーカーの海外営業で,中南米部門。このまま南米まっしぐらかと思ったものの,「モノを売るだけの仕事」になにかものたりなさを感じ,ふと頭に浮かんだのが冒頭のOGのことばと活気ある職場のようすだった。

転職後はベテラン・リサーチャーに付いて調査のイロハを学ぶことになった。そこであつかわれるテーマは,ジェンダー,ひとり親,少子化,介護,DV,虐待,貧困など,そのときどきの社会で大きくとりあげられている重要な問題ばかりだった。クライアントも,行政機関,研究機関や大学の研究者,国内外の民間企業とさまざまだ。そして,調査実施にあたって行われる専門家たちの長時間にわたる侃々諤々の議論を前にして,圧倒されることもしばしばあった。

リサーチャーとして出遅れた私に,なにができるのか。心がけたことは,専門家の意見や要望を最大限とりいれつつも,つねに一般の対象者の立場にたって,できるだけ平易な表現や回答しやすい構成に,調査票を組みたててゆくことだった。

時代は変わって,私も,出会ったころのOGの年齢にちかづいた。いまや,日本の調査会社でも女性の姿はあたりまえとなっている。また,これまでに国際比較調査などでは,海外の調査機関と協力するなかで,年代やライフステージもさまざまな女性リサーチャーと知り合うことができた。そうして,リサーチャーとして経験を積んでゆくなかで,仕事だけでなく日々のくらしをたいせつにすることによってこそ,私たちがアンケート調査へのご協力をお願いする対象者の方がたと生活実感を共有できるのだと,強く感じている。

プライバシーに関する意識の高まりから,調査への協力率の低下など調査をとりまく環境は年々きびしくなっているが,調査のテーマによっては高い協力率が得られるなど,自分の声を「世論」として伝えたいという回答者の思いを感じることも多くある。そんな一人ひとりの声を,一リサーチャーとして,クライアントや社会に届けているという自負を,こんごももち続けたい。(※『社会と調査』17号(2016年9月)より転載)

  • 2018年4月6日UP