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2017年度 社会調査協会 シンポジウム
調査が困難な対象へのアプローチ


日時:2017年11月18日(土) 13:45~16:15
場所:“嘉ノ雅”茗渓館 (茗渓会館)
プログラム
登壇者(報告順・敬称略)

1.「看護実践の場でエスノグラフィーを書くこと」

松澤和正(帝京大学)

2.「「調査の答え」を不問にする―東日本大震災と20年の聴き取り調査敗北宣言」

金菱 清(東北学院大学)

3.「自己再帰性の発見としての教育実践―少年院・ティーンコートでの矯正教育から」

古賀正義(中央大学)

<司会> 片瀬一男(東北学院大学)

日時:2017年11月18日(土) 13:45~16:15 (13:15~受付開始)
会場:“嘉ノ雅”茗渓館(茗渓会館) 2F 茗渓の間

   東京都文京区大塚 1-5-23 (最寄り駅 地下鉄メトロ丸の内線茗荷谷)

入場料:無料 ※どなたでも、ご来場いただけます。
非会員の方は、下記のメールアドレス宛、ご来場の希望を事前にお知らせいただけますと幸いです。
お問い合わせ先:一般社団法人 社会調査協会事務局

Tel. 03-6273-9784 Fax. 03-5684-0374

メールアドレス : sck.main@jasr.or.jp

URL : http://jasr.or.jp/

「シンポジウムの趣旨について」

今年度のシンポジウムでは、質的調査の方法を取り上げ、アクセスが困難な集団や施設、地域に対してエスノグラフィーの手法で迫ることが抱える根源的な問題にフォーカスする。エスノグラフィーは、社会学における主要な質的研究法であるが、これによって困難を抱える対象にアプローチするなかで、研究者自身もさまざまなリスクに直面することになる。今回は上記の3つの調査について、現場からの問題提起をいただき、こうした社会調査の困難を乗り越える方途を探りたいと思う。

第一報告は、精神科病棟での看護行為に関する看護学・医療人類学の研究である。この領域の研究者が直面する困難は、後に続く2つの社会学的研究と正反対のべクトルをもつ。それは研究者が研究対象の世界(精神科病棟)の「構成観察者」(松澤 2008)であることに由来する。すなわち看護師として看護行為に携わりながら、自らの看護行為を自己観察し、その「厚い記述」によってそこに潜む問題点を抉り出す。けれども、臨床看護のエスノグラファーは、一方で看護師としての実践に沈潜せざるをえないがゆえに、「帰れない」フィールドワーカーとなるリスクを抱え込む。自己の看護行為を対象化し、研究という「外の」世界にいかに「帰還」するか―そこには強靭な理論的・方法論的自覚がいることだろう。

これに対して、社会学の質的研究は、いわば外部から困難を抱えた領域に入っていく。第二報告は、東日本大震災で被災した地域に、それも家族や知己を失った被災者の霊性の世界に入りこむ研究である。被災地には生活・経済の復興だけでなく、慰霊碑の建立や震災遺構の保存などをめぐる住民どうしの葛藤がある。それは同じ被災者でも、死生観・霊魂観などに微妙な差異があるためである。こうした被災者の心の襞にどう迫るのか。金菱・東北学院大学震災の記録プロジェクト(2017)がとった方法は、「ライティング・ヒストリー」―被災者自身に亡くなった家族や知己に向けて手紙を書いてもらうことであった。だが、その手紙を読んだとき、研究者は自らが長年、被災地で行ってきたフィールドワークの「敗北」を知らされる。なぜなら、それまでのインタビューは、被災者が手紙に綴ったよううな、被災者自身が語りたかったことに少しも届いていなかったことに気づかされたからある。

第三報告も、非行少年の矯正教育という調査者のアクセシビリティが要求される対象である。特に日本の少年院は、入院者の個人情報や収容の保安管理などの点から厳しい情報統制が引かれている。院内教育の評価と改善を主な目的として、教育学・社会学研究の限られたメンバーが院内での観察や聞き取りの機会を与えられた。約3年にわたる時々の現場実践の観察や院生・教官への聞き取りの多くは、ICレコーディングやVTR記録として残され、「事実」をグループで確認するなかから分析が行われた。意外にも説諭や懲戒による規律統制の機会より、今の院内生活や過去の問題性を抱えた社会生活に関して、教官との面談や指導の中から、自分のやっていることや、やってしまうことについて「自己再帰性」を高めることに主眼がおかれていた。罪を正確に認知することが、罪を償うことに先行するといえる。同時に、こうした知見は長期の密着した観察ゆえに理解できたことでもある。その後のアメリカでの少年裁判の観察では、アクセスが容易であると同時に、社会参加の行動力を求める実践に力点が起かれており、矯正教育の文化的な差異を実感することができた。


文献
金菱清 ・東北学院大学震災の記録プロジェクト (編),2017,『悲愛―あの日のあなたへ手紙をつづる 』新曜社.
古賀正義,2012(広田照幸、伊藤茂樹と共編著)『現代日本の少年院教育―質的調査を通して』名古屋大学出版会
古賀正義,2011「非行少年の「セカンドチャンス」を構築する教育実践-カリフォルニア・ティーンコートに関する参与観察研究から」中央大学『教育学論集』第53集,pp.25-54
松澤和正,2008,『臨床で書く―精神科看護のエスノグラフィー 』医学書院.