活躍する社会調査士
現役社会人として活躍する先輩からのメッセージです

西原麻衣(専門社会調査士)
2008年3月 奈良女子大学大学院人間文化研究科国際社会文化学専攻博士前期課程修了
株式会社エル・ティー・エス勤務

※所属は『社会と調査』掲載時のものです。

ITプロジェクトで活きる社会調査の手法

私は現在、ITコンサルタントとしてシステム開発のプロジェクトに従事している。大学院修了後の約8年間にSE(システムエンジニア)、事業企画、営業、コンサルタントと職種は変わっているが、一貫してシステム開発に関わる仕事に携わっている。

社会調査とシステム開発は一見関連が弱いように思われるが、類似するアプローチや手法を用いることも少なくない。そこで、これまでの経験や感じたことから、システム開発をふくむITプロジェクトで活かせる社会調査の手法について述べたい。

社会調査を行うさいには、問題発見と仮説検証のいずれも調査の目的となりえるが、システム開発においては新規事業への対応や業務効率化、法改正への対応など、目的が明確なところから実現方法を検討することが多い。その検討のなかで、問題の発生、解決策の立案、実行というサイクルが日常的に発生するが、そのさいに仮説検証の考え方が有効となる。また、顕在化していないものの、リスクとして考えられることを洗い出すさいにも、仮説を用いて解決策を導き出す。

質的調査で学んだことが活かされるのが、システムの仕様を決める要件定義の場面である。新しい案件に参画するさい、まずは顧客とのコミュニケーションを構築するところからスタートする場合が多い。業務要件のヒアリングでは、必要な情報を引き出すことはもちろんのこと、ときには話し手が意識していないところから重要な情報が引き出されることもあるため、社会調査でいうところの「ラポール」の形成が重要となる。

量的調査については、以前サービスの新規企画に携わったさい、新規、既存顧客からニーズを収集するためのアンケート調査を行ったことがある。アンケートを作成するさい、回答者が答えやすいような質問の形式や順序、特定の回答に誘導しないような表現など、調査設計で学んだことに留意しながら進めた。 人の意識や行動を捉える社会調査と、ものづくりであるシステム開発とではとうぜん役割は異なる。しかし、データやシステムの先にある「人」に目を向けることが重要であるという点では同じであると考えている。

IT業界はまだまだ理系の仕事というイメージが強く、私自身も就職した当時、社会調査士の資格を活かすのはむずかしいと言われたこともある。しかし、最近ではデータサイエンティストなどの職種が注目されていることもあり、IT分野での社会調査士の活躍フィールドが増えてきていると感じている。

社会調査を学んだ方がIT業界に興味をもつことを願うとともに、今後も学んだことを活かせる場面を増やしながら経験を重ねてゆきたい。
(※『社会と調査』16号(2016年3月)より転載)

  • 2017年4月21日UP