社会調査実習紹介
楽しい + さまざまな体験に満ちた調査実習を紹介します

メディア学とフィールド調査の接合を目指して

加藤晴明(中京大学現代社会学部教授)

写真1 村の小さなラジオ局での取材

メディア社会をテーマにした社会調査の可能性として、大都市の若者文化研究以外のあり方を模索したい。地方に立地する大学の学生の特性を活かして、〈地域・文化・メディア〉を連環させる調査をしたい。そうした関心から、私の社会調査ではメディアコンテンツの解釈・記号分析に現地フィールドワークをクロスする複合型ともいえる調査実習を試みている。

学生たちにフィールド調査でなければ体験できないような、地域の人びとや生活文化との出会いの醍醐味を味わって欲しい。地域固有のコンテクストを少しでも理解したうえで、メディアコンテンツを解釈して欲しい。複合型の調査デザインには、そういう意図が込められている。

コミュニティラジオの調査を5年ほど続けたあとで、2015年度から私の研究調査地でもある奄美群島でこうした社会調査実習を試み始めた。基本テーマは、「メディアの中の奄美、生活の中の奄美〜奄美イメージの研究」で、具体的なサブテーマは年度で異なる。2015年度は「映画・テレビドラマ」であった。以後、「奄美うたの歌詞世界」、「写真イメージ(民俗写真から観光写真まで)」、「SNS」と続いている。いずれも奄美表象の記号分析と現地フィールドワークをクロスさせている。


写真2 奄美の風景と筆者の教え子たち

現地調査では、島の暮らしに触れる機会を増やすために、メディア関係者のレクチャー・施設見学やインタビューだけでなく、集落の人びととの交流や民俗芸能への参加なども取り入れている。さらに希望者には、調査後も島に残り地元のコミュニティFMやケーブルテレビ局で職場体験インターンの機会を提供している。

報告書の作成にあたっては、メディアコンテンツをいきなり南島イデオロギーやオリエンタリズムの物差しで裁断するのではなく、自身の感受性にもとづいて現地と対話することを重視してもらっている。学生たちは行程を振り返りながら、取材・出会い・体験を「奄美フィールドノート〜行って、見て、感じた奄美」として執筆する。そうした紀行文の執筆を起点にしながら、再度コンテンツ分析を試みることで、より深い理解や“発見”に挑戦してもらう。学生たち自身に、フィールドから何かを発見していく醍醐味を味わってもらう、それが社会調査実習の教育的な目的でもあると考えるからである。

  • 2018年8月27日UP