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2017年4月3日(月)
わたしの聴き取り調査法
関西大学教授
竹内 洋
くつろぎ
わたしの聴き取り調査法
関西大学教授   竹内 洋
2017年4月3日UP
(『社会と調査』5号より転載)

わたしはいま戦後日本の思想と社会に関した2つの連載をつづけている。「革新幻想の戦後史」(『諸君!』に連載していたが、休刊後は『正論』)と「メディア知識人の運命 清水幾太郎論」(中央公論新社ホームページ)である。資料のほとんどは、活字で発表されたものであるが、聴き取り調査も平行して行っている。

といっても、対象者のほとんどは故人である。聴き取り調査はできない。そこで、本人の雑文や対談、座談会での発言をできるだけ収集することにしている。本流の論文とはちがった場所であるだけに、おもわぬ逸話やホンネが語られている。たとえば、清水幾太郎の場合は、自分は「ジャーナリストという芸人」といっていただけに、サービス精神旺盛で、対談では、自伝などではみられない情報が得られる。生家のとなりが長唄の師匠さんで、長唄が聞こえてくると、親父が「三つ違いの兄(あに)さんと」謡いだしていたなどと語っている。聴き取り調査で興が乗り、喋ってくれているようなものである。なによりも清水の生家あたりの空気が生き生きと伝わってくる。わたしはこれを「架空」聴き取り調査と名づけている。

もちろん戦後思想の巨人とお付き合いがあったもと編集者などにも、場所を設定して聴き取り調査を行った。しかし、ボイスレコーダーやノートを前にしてしまえば、相手も構えてしまうことが多い。そんなときに、時間と場所の制約のため、ある知識人と編集でかかわった複数の編集者に一堂に会してもらって、その知識人をめぐる思い出話をしてもらったことがある。同一の話題のせいか、座がもりあがり、1人の発言が呼び水になって、「そういえば、こんなこともありましたよ」とか、「いやそうでもないよ」などとドンドン話が展開した。一対一の聴き取り調査よりもリラックスできて、話にも深みができるし、異論もでて、聴き取りに厚みができたことを覚えている。これを「集合的」面接法と名づけている。

戦後の思想をめぐってのテーマだから、大学関係者や編集者がインフォーマントとなるが、旧知の人も少なくない。パーティで一緒になったり、学会で帰りに一緒になってそうした人と喫茶店に寄ったり、一献傾けることもある。話題はもちろんあれこれだが、そんなときに、タイミングをみて、知りたいことを持ち出すとそれが聴き取り調査になってしまうこともある。ある有名な学生運動家のことをお聞きしたときに、いろいろな逸話を教えてもらったことがある。あとで確かめるために、もう一度電話をしたが、当人はそんなことまで言ったかなあと恥ずかしがっていたが、「彼の家に行ったときのことだから、間違いないよ」といってくれた。あくまで、友人、先輩と久闊を叙すための機会だから、話の流れで聴き取り調査になってしまうのである。ころあいをみて、切り出すのが重要だけれども、無理は禁物である。これを「即興」聴き取り調査と名づけている。もちろん、「即興」聴き取り調査で得られた情報についてはインフォーマントの名前は載せないことにしている。

以上3つの聴き取り調査法は、いずれも、わたしが、必要から編み出した聴き取り法である。社会調査の標準的方法を学ぶことは重要だが、レディーメード(標準的方法)を自分流に手直しして、自己流を生み出すことが大切と思うのである。