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社会調査のさまざまな話題
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社会調査に関係するさまざまな話題を提供します。お楽しみください。
Contents
2017年4月3日(月)
協同組合の社会調査からみえてきた新しいコミュニティ
早稲田大学名誉教授
佐藤 慶幸
2017年4月3日(月)
わたしの聴き取り調査法
関西大学教授
竹内 洋
2016年12月19日(月)
調査日録からの3つの断片
九州大学名誉教授
鈴木広
2016年12月19日(月)
東京教育大学社会学教室での調査実習
東京教育大学名誉教授
森岡清美
2016年5月12日(木)
教育計画演習
名古屋大学名誉教授
潮木守一
2016年1月8日(金)
委託調査の醍醐味
大手前大学教授
鳥越 皓之
2015年8月5日(水)
ラポール
山口大学名誉教授
小谷 典子(三浦 典子)
2015年7月3日(金)
調査データ分析の昔ばなし
東京工業大学名誉教授
今田 高俊
2015年5月28日(木)
大学の機関研究と社会調査
関西国際大学客員教授
塚原 修一
2015年4月27日(月)
個体発生は系統発生を繰り返すべきか
東北大学名誉教授
海野 道郎
2015年3月4日(水)
学校からの社会調査
大阪大学
近藤 博之
2014年12月1日(月)
災害記憶の風化と変化
放送大学特任教授
原 純輔
2014年10月30日(木)
参与観察を考える
京都工芸繊維大学名誉教授
中野 正大
2011年6月17日(金)
新しいデ-タ群の発掘と新しい分析手法の開発
東京都立大学名誉教授   倉沢 進
2011年6月17日(金)
回答者の安全に対する配慮の必要な調査例
-WHO「女性の健康とドメスティックバイオレンスに関する国際比較調査」(2000年日本調査)紹介-

東洋英和女学院大学   林 文
2011年6月17日(金)
理論が眠ればデータも眠る
―省庁統計調査再集計の経験から―

日本女子大学   岩木 秀夫
2011年6月17日(金)
見えざる間違いに眼を向けよう-隠れたエラーをあぶりだせ
立教大学名誉教授   池田 央
2011年6月17日(金)
臨床社会学と社会調査
関西学院大学   大村 英昭
くつろぎ
協同組合の社会調査からみえてきた新しいコミュニティ
早稲田大学名誉教授   佐藤 慶幸
2017年4月3日UP
(『社会と調査』5号より転載)

早稲田大学文学部社会学専修では3年度生は社会調査実習を必修科目として履修しなければならない。担当教員はフィールドの選定には苦労するが、当然のこととして担当教員の専門研究領域に関連するフィールドが選ばれることになる。私の場合は、アソシエーション論の文献的理論的研究をすすめて拙著『アソシエーションの社会学』(1982)を出版していた。ある研究会でアソシエーションについて話をしたとき、その会に生活クラブ生協の職員の人が出席しており、彼と話を交わすことで協同組合はアソシエーションではないかと認識したのである。この生活クラブ関係者との偶然の出会いよって、生活クラブ生協とのラポールができ生活クラブ生協を学生の社会調査実習のフィールドとすることができたのである。こうしたいきさつによって私のアソシエーション研究は生活クラブ生協の実証的な研究へと進むことになった。

このようにして、生活クラブ生協を学生の調査実習のフィールドとしたことを契機にして、院生、同僚研究者が生活クラブ生協の調査研究に参加し、数年にわたって生活クラブ生協の研究を続けた。その共同研究の成果として『女性たちの生活ネットワーク』(1988)、『女性たちの生活者運動』(1995)を、そして佐藤の単著として『女性と協同組合の社会学』(1996)を出版した。

生活クラブ生協は、専従職員とパートナーシップを組む家庭の主婦を主体とする消費者生活協同組合である。生協運動は、生活クラブの場合、〈生産する消費者運動〉として特徴づけられる消費材の供給を生産者との社会契約によって持続し拡大する社会運動である。その組織が予約共同購入システムである。このシステムを効果的にかつ効率的に組織するためのアソシエーションとして協同組合が形成されている。そして、この予約共同購入システムが、経済的下部構造を形成し、生協運動とそれを基盤にして行われる社会活動・運動に必要ないっさいの諸経費を創出しているのである。運動と事業はあざなえる縄のごとく一体となっている。

しかし、以上の予約共同購入システムを基盤にしながら、生活クラブ生協の活動の基礎単位が時代の変化に対応して〈班〉から〈個人〉へと組織論的転換をすることになる。その転換は、近隣コミュニティが衰退し、日常生活の私秘化、個人化が進む中での「班の連合組織」から「意志ある個人の連合」への思想的転換でもあった。平均 7~8人からなる班は、消費材を班でまとめて発注し、届けられた消費材を班員で分け合う基礎的組織であり、それの集合が班別予約共同システムとして 生活クラブ生協の経済的下部構造を形成してきた。

しかし経済成長とともに、生活の個人化が進み、また仕事に従事する兼業主婦が多くなるにしたがって、近隣で班を構成することが困難になり、個人を組織の基礎単位とし、その個人に消費材を配送する〈戸配〉が多くなってきたのである。消費材の班別配送から個人別配送(戸配)への変容は、伝統的な近隣コミュニティの衰退を意味していた。しかし同時に組織の基礎単位を組合員個人として、その個人に消費材を戸配によって供給するということのうちに「自立した意志ある個人」像をみいだそうとしたのである。そして「自立した意志ある個人」が生協活動に参加することによって、多様な生活領域で人的交流のネットワークを形成し、新しい市民的コミュニティ形成の担い手になっている。家族から近隣へ、そして近隣よりも広域的な地域での自立した個人間のネットワークが、生活クラブ生協運動を媒介にして形成されつつある。そしてそのネットワークの担い手は多くの場合、主婦である女性である。