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2014年10月1日(水)
サンプリングと選挙人名簿と住民票の閲覧
同志社大学社会学部 鯵坂 学
社会調査オピニオン
サンプリングと選挙人名簿と住民票の閲覧
同志社大学社会学部 鯵坂 学 
2015年10月1日UP

これまで、30ヶ所を超える都市や地域の社会調査を共同であるいは単独で行って来ました。この中で、20数か所の都市や地域でアンケート用紙を使った量的な調査を実施しました。その中で最も大がかりなものは、1992・1993年に科学研究費による共同研究でした。全国の11の地方都市の住民総計6,357人を対象にしたもので、対象者の抽出作業は各自治体の選挙人名簿からの無作為抽出で行いました。それなりに大変でしたが、共同研究者の協力があり大きなトラブルもなく実施できました。回収率は70~41%で、今から考えるとかなり高率のものでした。

この5年ほど前からは、大都市の「都心回帰」に注目して、東京都23区、札幌市、名古屋市、大阪市、京都市、福岡市の大都市の都心区に住む住民、多くは共同住宅・マンション(マンションと略す)に住む方々を対象に社会調査を実施しています。それらの調査の一環としてマンション住民の移住の目的、属性や生活、近隣の付き合い、価値志向などを尋ねたアンケート票を郵送で実施しています。ところが、20年前とは違ったかなりの困難が見られます。

まず、2006年11月から公職選挙法の第28条で選挙人名簿の取り扱いが変わり、閲覧は「統計調査、世論調査、学術研究その他の調査研究で公益性が高いと認められるもののうち政治または選挙にかんするものを実施する」の場合に、許可さされることになっています。特に「公益性」については、内容だけでなく、調査の成果が社会に還元されることを求めています。また、閲覧より得られた名前や住所などの知り得た情報に関する管理・廃棄など、閲覧やあて名書きなどをおこなう人の範囲や、確認のための証明なども厳しく定められています。違反した場合は罰金や懲役が課されることになっています。現在は、この名簿の閲覧は無料です。

これと同様に、「住民票」(住民基本台帳の一部の写し)の閲覧も住民基本台帳閲覧法第11条の2により、「公益性が高いと認められるものの実施」のため、と市町村長が認めた場合にその閲覧が許可されます。選挙人名簿と同様に、秘守義務が課されています。「住民票」の閲覧の場合は閲覧料が必要で、1人分30円~100円程度を支払わねばなりません。

ついで、選挙人名簿や住民票の閲覧簿・リストの記載の仕方が、自治体によってかなり異なることがあります。記載されている事項は、氏名・住所、生年月日、性別ですが、その順番や編成は自治体によりかなり違うのです。たとえば、京都市で閲覧できる選挙人名簿の住所は番地までで、マンションなどの名前や部屋番号など(方書き)は公表されていません。ですから、「都心回帰」が進む都心区では、マンションに住む世帯が7割を超えていますので、母集団のリストとしては、適当ではありません。そのため、京都市では、住民票の閲覧を申請し、そこから調査対象者を抽出しました。有料のため約1300人分に対して、4万6千円ほどの料金を支払いました。さらに、この住民票の一部の記載リストの順番は、投票区の下位単位として町名ごとに綴じられていますが、その下は、氏名のアイウエオ順でリストアップされていて、次に番地以下の住所が来ます。ですから、同じ世帯と思われる人(たとえば親子・夫婦)や、マンションなどの名前や部屋番号などが一緒の世帯もバラバラの順で記載されています。サンプリングにはかなりの時間がかかります。

これに対して大阪市の選挙人名簿では町丁目で綴られ、住所・氏名(アイウエオ順)・生年月日(元号)・性別の順で記載されています。大規模と推察される・マンションの場合は、マンション名および部屋番号は書かれていますが、小規模と思われる場合は、マンション名が書かれていないことが多くあります。そのため、これらの人々の場合は、調査票が「宛先不明」戻ってくることがかなりあります。この場合は、これらの方だけ、住民票の閲覧を申請して調査票を再送しました。

最後に、近年、調査票をお送りした対象者からのクレイムがかなりあることです。調査の「お願い文」に連絡先(研究室の電話およびE-mail番号)を記載していますが、「どうして私あるいは家族の住所がわかったのか」という電話やメイルが毎回、数件あります。つまり、調査の「お願い文」には、選挙管委員会や住民課の「審査と許可を得て、くじ引きのような方法で、あなたを対象者として選ばしていただいた」と記載してあるにもかかわらず、少数ですが厳しいクレイムがあります。そして、自治体の担当課にはもっと厳しい「どうして私の氏名・住所を見せたのだ」というクレイムがあるようです。担当者の方は法律に基づき許可されているのに、本当に気の毒な気がしています。

これらの困難を乗り越えるためには、社会調査の丁寧な説明、理解を得るような研究成果の市民への還元が必須となっています。ですから、これらの名簿を使った調査は、研究者の個人の興味・関心からの調査ではなく、「公益性」が求められています。そのため、私は報告論文を書いて関連学会の大会で報告するととともに、アンケート調査に協力・回答してくださった方皆様に「報告書」を必ずお送りしています。さらに、当該市区行政の担当部署や新聞社にも「報告論文」を送っています。社会的な責任が求められています。