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2011年6月17日(金)
評価不能な「インターネット世論調査」記事がもたらす調査の玉石混淆
国立情報学研究所 小林哲郎
社会調査オピニオン
評価不能な「インターネット世論調査」記事がもたらす調査の玉石混淆
国立情報学研究所 小林哲郎
2011年6月17日UP

東日本大震災の発生から数日たった2011年3月15日の読売新聞に、「中国世論『日本助けよう』ネット調査83%」という見出しの記事が掲載された。記事いわく、「国際問題専門紙「環球時報(英語版)」によると、大手サイトのインターネット世論調査では、「日本に人道支援を行うべきだ」との意見が83%に達し、「反対」の13%を上回った」とある。インターネット調査は一般的に母集団を確定することが難しく、代表性に欠ける場合が多い。この場合も100%が指すものが何であるのか不明である。インターネット調査であることを考えれば中国人全体でないことは明らかであるし、おそらく中国のインターネット利用者全体も代表していないだろう。つまり、調査に回答した人(人数も読売新聞の記事からは不明)の中で、「日本に人道支援を行うべきだ」という意見に賛成した人が83%いたということを意味しているにすぎないのではないか。調査方法に関する記述が無いため、いずれも憶測の域を出ない。しかし記事の見出しは「中国世論」とある。このようなミスリーディングな見出しは、世界一の発行部数を誇る読売新聞ならば当然回避すべきだろう。

元記事を掲載した国際問題専門紙「環球時報(英語版)」に調査自体の信頼性の検証は委任しているという見方もできるかもしれない。しかし、こうした「インターネット世論調査」に付随する問題を明記することなく記事として掲載してしまうことで、一方では読売新聞が独自にRDDを用いて実施している科学的な世論調査の数字も同じレベルのものとして受け取られてしまう危険性がある。前者は母集団が明確でなく代表性が無いのに対して、後者の世論調査が示す数字は、RDDにおける母集団の定義の問題はあるにせよ、世論をより良く代表しているものである。こうした調査の質の違いについて言及することなくすべて「世論調査」として記事することは、コストをかけて自社で実施している質の高い世論調査の価値を貶めてしまう危険性があるのではないか。少なくとも、オンライン版(YOMIURI ONLINE)では、元記事へのリンクや調査方法についての記述があってもよいだろう。こうした付随した情報が紙幅の制約なく掲載できるのもオンライン版のメリットであるはずだ。


また、インターネット調査そのものが悪いわけではない。そのインターネット調査がどのように実施されたのかを明記することで、少なくとも社会調査の専門家はその数字の意味するものについて評価することが可能になる。こうした調査方法に関する情報が無いと、調査の質に関する評価が不能になってしまい、数字だけが独り歩きすることになりかねない。最近では、インターネット調査の結果を確率標本抽出調査に近似する統計的な補正方法や、より代表性の高いインターネット調査パネルの構築方法に関する研究も進んでおり、インターネット調査内部でも質の分散が拡大している。マスメディアがインターネット調査の結果を引用する際には、調査方法に関する情報を付記し、無作為抽出された世論調査との違いについて明らかにすることで調査の玉石混淆を避けなくてはならない。


資料:中国世論「日本助けよう」ネット調査83%(YOMIURI ONLINE)